12:どうして何もしてくれないの




ゾロ短編「鈴の音が聴こえる」と同ヒロインです。
先に上記をお読みいただくことをお勧めします。




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長い長い遠距離恋愛を経て
ゾロが新世界に入ると同時に、やっと同じ船に乗った私たち。

長い長い

遠距離恋愛?

そもそも私たちは遠距離恋愛
と呼べるような仲だったんだろうか。

ふと、そんな疑問が浮かんだ。



「ゾロ、」
「どうした」

展望台で一人筋トレに励むゾロに声をかける。
むわっとむせ返る熱気を覚悟していたが、開けられた窓から予想外に心地いい風が入ってくる。

ゾロは手を休めることなく、視線だけをこちらに寄越した。

村にいた頃から、ゾロはいわゆる筋肉バカで、いつだって鍛錬が第一優先。
そんなことは重々承知だ。

それでも、ちょっとだけ
私を女として意識してほしくて

今日はナミに借りたいつもより露出高めのキャミソール。

出会ったばかりの骸骨さんは「ヨホホホー」と怪しげな笑いをしてナミに殴られていたのだけれど

案の定、ゾロにはなんの変化もない。

それどころか、再び目を閉じ、筋トレに集中している。

「ねぇ、なんか・・ないの?」
「なんか、ってなんだ。」
「なんかは・・なんかだよ。」

ゾロはダンベルを上げ下げしていた手を止め、ふーっと息を吐いた。

「俺は筋トレがしてェ。」







やっぱりそうか、と、私は黙ったまま展望台を後にした。
そのまま、キッチンへと向かう。

わかってはいたのだ。
ゾロが私の身体に興味がないことくらい。

村にいた頃だって、身体を求められたことなんて一度もなかった。

それでも、期待していたのだ。
再び一緒にいれるようになったら、その先に進めるんじゃないか、って。

なのに、会って1週間経っても、2週間経っても、3週間経っても
それ以上先に進むことはない。

期待していた分、落胆は大きかった。

「サンジくーん、私ってそんなに魅力ないかなぁ」
「そんなことないよー!ユイちゅわーーーーん!!」
扉を開けて早々、今にもとびかかってきそうなサンジくんの頭を右手でロック。

「ツンデレな君も素敵だぁーーー!」

ここまでがっつくゾロを期待していたわけではないものの、やはり落胆してしまう気持ちは否めない。

「冷たいもの、何か飲みたい。」
「喜んでー!」

サンジくんは意気揚々と飲み物の準備を始めた。

ここで、この船で、ゾロは一体どんな生活を送ってきたのだろう。
女の気配は、あったのだろうか。

筋肉バカとはいえ、ゾロだって健全な男だ。
立ち寄った島で、女を買うことだってあったかもしれない。

自分の知らない間のゾロを想い、胸が痛んだ。

「浮かない顔だね。」
コトリ、と静かに目の前にグラスが置かれる。

グラスの中では、シュワシュワと音を立てるサイダー。
青色のドリンクは愛鳥”テン”を思い出させた。

テンは今頃チョッパーと楽しく遊んでいるのだろう。
私なんかより、すっかりこの船に馴染んでいるように見えた。

「ゾロはさ、どう思ってると思う?私のこと。」
単刀直入に尋ねる。

クソマリモが悩ませてやがるのか
と一瞬悪態をついたものの、私の問いに答えるべく、サンジくんの目がハートから真剣なものに変わった。

「直接聞いたことはねェが、傍に置いておきたいからユイちゃんを呼んだんじゃねェのか?」
「傍に置いておきたい・・か・・・。」

それは、一体どういう意味を持っていたのだろう。

会えない時間、恋焦がれていたのは私だけだったのだろうか。
会えない分、今度会ったら触れたい、と。
ゾロにも触れてほしい、と、そう思ったのは。


「あー・・それで今日はナミさんの服か。」

サンジくんは一人納得した顔を見せた。
教えてもいないのに、ナミの服だとわかるあたり、さすがというかなんというか。

サンジくんは机に突っ伏した私の頭を、くしゃりと撫でた。

「俺から見れば十分魅力的なレディだけどなァ」
でも、あいつにそうみられなきゃ、意味ねェんだろ?

サンジくんの言葉にうなづく。

「あいつ・・ほんと幸せもんだな。
 ユイちゃんにこんなに想われて。」

幸せもん・・なんだろうか。
ゾロの気持ちなんて、確かめたことない。

村にいたときから
気づけば
一番近くにいて、手をつないで
抱き合って、キスをして

でもお互いに好きの言葉を交わし合ったことは、ない。

私が勝手に恋人と思い込んでいただけだ。

「ユイちゃん、つらくなったら俺のところにおいで。
 いつだって大歓迎だよ。」

優しく私の頭をなで続けてくれる心地良さに目をつぶっていると、キッチンのドアが乱暴に開かれた。




「アホコック、てめェ何してやがる。」
「おせェよ、クソマリモ。」

振り返ると、入り口にゾロが立っている。

「おまえもだ、ユイ。ちょっと来い。」
「ちょ、ゾロ・・つ!」

ぐい、とゾロに腕を引かれる。
そのままゾロはキッチンを出て、展望台へと私を連れて戻った。

「ここならしばらく誰もこねェだろ。」

どっしりと座り込んだゾロの前で
なぜか私は正座をしている。

聞いてみようか。
今日こそ。

私だって、この曖昧な感じが続くのは
もう耐えられない。

「どうして・・・?」
「あ?」

膝の上でぎゅっと両手を握る。


「どうして

 もしてくれないの?」


「は?」

ゾロの頭の上に”?”が浮かぶ。

そうだった。この人に遠回しな言い方は通じない。
万年鈍感男なんだから。

「私、そんなに魅力ないかな・・?」
「おまえ、何言って」
「男の人は好きじゃなくたってキスできる、っていうもんね。
 でも、それ以上のことだってできるはずなのに、なんで・・・っ」

好きじゃなくてもできることが、私にはできないなんて。

だめだ、だんだん泣きそうになってきた。

「・・・・・なるほどな。
 そういうことか・・・・。」

ゾロにもようやく合点がいったらしい。

だからってそんな格好でエロコックのとこ行きやがって
とかなんとかぶつくさ言いながらゾロは首の後ろをかいた。
それからゾロは大きく息をつくと、真っすぐにこっちを向く。

真っすぐなその目に、懲りない私の心臓はドキリと跳ねる。
どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。

離れている間も色あせなかった、この気持ち。
ちゃんと伝えたことはないけれど。



「そんなん、大事にしたいからに決まってるだろうが。好きな女大事にして何が悪ィ。」

ずっと、聴きたかったその言葉。

「・・おま・・・っ!なんで泣くんだよ!!」

ゾロが慌てた様子でこちらに近づいてくる。
そのままゴシゴシ、と乱暴に涙がぬぐわれた。

「私が!今迄どんだけ不安だったか!」
あぁ、これじゃ八つ当たりだ。

「知るか!言わなきゃ伝わらねェよ!
 ちゃんと言え、このバカ!!」

わかってるよ、今までもちゃんと伝えなかったのは私だって。
ゾロが万年鈍感男なのも知ってる。

「鈍感だし、ぶっきらぼうだし、亭主関白だし」
「んだよ、悪かったな。」

誰が亭主関白だ、と諦めたようにため息をつくゾロの胸に、私は頬を寄せた。

「でも大好き」
「それは知ってる」
「何それ、言わなくても伝わってんじゃん」
「うっせェ」

そのまま塞がれた唇。
しばらく、キスを繰り返した後
耳元でゾロの声がした。

「ユイ、愛してる。」

今度こそ、離さない。








***あとがき***
ほら、シリーズ化したやないか、と。笑

短編苦手なんです。ほんとに。笑

過去編とか、同じ船に乗ってみんなに紹介したときとか
ナミ視点とかも書きたいなーーー
(需要があるかは・・・わからないですが・・)




2019.05.05


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