あとはただうなづくだけ



恋の荒療治続編です。
未読の方は先にこちらから





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変だ。

何が変って

私が変だ。

もっというと、私のサンジくんに対する気持ちが。

原因はわかってる。

こないだの、アレだ。

「ユイちゃん晩飯何食いてェ?」
「な、なんでもいい!」

答えるだけ答えて
(答えと読んでいいものかどうかは別問題)
脱兎のごとく、その場を去る。

そんな私をサンジくんは怒るでもなく、ただ笑っていた。



「サンジと喧嘩でもしたの?」
「な、なんで・・・?」

安全なはずの女部屋で、突如聞かれたロビンからの質問に、心臓が跳ねる。

「喧嘩じゃないわよ、だってサンジくん楽しそうだもの。」
「たしかにそうね。」

二人して、何を言い出すのか。

「まぁまぁ、ちょっとこっち来なさいよ。」

にやにやと笑っているナミに導かれ、私はナミとロビンの間に座らされる。
怖い!
そのなんか企んでるような、楽しそうな顔!!

「サンジくんになんか言われたんでしょ。」
「なんで知って・・!!」

慌てて口を押えるが、時すでに遅し。
反対隣りのロビンまで、クスクスと笑っている。

「告白でもされた?」
「違う違う・・・!」
「えー?違うの?」

ロビンの言葉を否定すると、ナミはあからさまに残念そうな顔をした。
そんな顔されたって・・!

「でも、ユイがサンジを意識してるのは間違いなさそうね。」
「それもそうね。」

あぁ、またにやにや顔に・・・。

サンジくんを意識してる・・・そりゃするでしょう。
あんなことがあれば。

「意識されただけ、サンジくんも進歩ね。」
「何があったのか、気になるわね。」

両サイドからの二人の攻撃が容赦なく襲うけれど、どうやら無理に聞き出すつもりはないらしい。
交互に二人の顔をみやると、二人とも優しい目のままこちらを見つめていた。

「進歩って・・?」
「気づいてないのはあんただけだった、ってこと。」
「え?」
「もうわかっているでしょう?」

両サイドから、二人が私の頭をなでる。
美人のお姉さま方に挟まれて幸せだなァなんて、まるでサンジみたいな気持ちになったりして。

「それで、あなたは一体どうしたいのかしら。」
「私は・・・」

どうしたいんだろう。
今まで自分で何も意識していなかったこの気持ちは、一時のもの?
それとも・・

「考える時間はいっぱいあるんだし、ゆっくり考えなさい。」
「ナミ・・・」

なんだか、頬が熱くなってきて、誤魔化すように私はナミの細い身体に抱き着いた。













やられた。
私の定位置に寝転ぶサンジくんの姿を、少し離れたところから見つめる。

「そこ、私の・・・」
「あァ、知ってる。」

目を閉じたまま、サンジくんが声を発する。

「来たけりゃ来ればいい。ユイちゃんの定位置だろ。」

逃げたい気持ちと、悔しい気持ちのせめぎ合い。

なんなの、一体。
この間から。
今日も絶対私の反応、楽しんでる。

「サンジくん、そんな性格悪かったっけ・・・」
「ありがとう。」
「褒めてないよっ!!」

サンジくんが、喉を鳴らして笑う。

なんだかもう悔しくて。

何が悔しいのかもよくわからないんだけれど

ドスドスと音を立てながら、サンジくんから人一人分空けて寝ころぶと、サンジくんはゆっくりと目を開けた。

「お、いらっしゃい。」

いらっしゃいじゃないよ、ほんとにもう。

「なんでそんな離れてるの。そこからじゃ、空見えないだろ。」
「なんでって・・・!」

そんなのサンジくんが私の寝ころびたいところに先に寝ころんじゃったからで。

気を紛らわせたくて空を見上げるのに、サンジくんの言う通り、ここからじゃマストが邪魔をして空が見えない。

「ユイちゃん、こっちおいで。」
「空、見たいだけだから。」

ほんの少し、ほんの少しだけ、サンジくんの方へと身体を寄せる。

「そんなんじゃ変わんねェだろ、ほら。」
「ちょ・・っ」

ぐい、と身体を引き寄せられ、気づくと目の前にサンジくんのシャツのボタン。

「こ、これじゃ見えない!」
「そうだな。」

同意しながらも、サンジくんの手は背中に回ったまま。

心臓が破裂しそうなくらい、ドキドキと大きな音を立てて、このままじゃサンジくんにも聞こえてしまうんじゃないか、と考えると、変な汗までかきそうだ。

「サンジくん、離して・・」
「なんで?」
「なんで、って・・・っ!」

思わず顔を上に向けると、すぐそこにサンジくんの顔があって。

意地悪な瞳と目が合う。

「俺に抱きしめられるのは、気持ちわりぃ?」
「そんなこと・・・」

ずるい、そんな聞き方。

「じゃぁ、これは?」

額に柔らかな感触がして、そのあとすぐにリップ音。

「・・・!!!」
「可愛い」
「サ・・!!何を・・・!!もうっ!!」

楽しそうに笑うサンジくんの余裕な姿が腹立たしくて、わずかに空いている隙間に手を入れて、ポスポスと胸をたたくのだけれど

男らしい身体にその力は吸い込まれるだけで、離れる気配は全くしない。

「俺、もう仲間のままではいれねェよ。」

突然降ってきた真面目な声。
胸をたたいていた手は、サンジくんの手に握られた。

そのままサンジくんの手が、私の指をなぞる。

「このままでもいいや、って思ってたときもある。でも、何もしねェまま他の野郎に取られたらたまんねェから。」

握られたままの手が、サンジくんの口元に寄せられる。
手にかかるサンジくんの息が熱くて。
でも、不思議と嫌ではなくて。

「ユイちゃん、好きになれよ。俺のこと。」


あとはただ

うなづくだけ


もしかしたら、最初から

気づいていなかっただけで











***あとがき***

ヒトミ様に捧げます。

リク内容:恋の荒療治 続編

短編ものの続編のリクいただきありがとうございました!
気にさせるだけ気にさせて終わっていたので、ちょっと進展させられて嬉しいです。
このヒロインちゃんは自分の気持ちに鈍感なので、荒療治くらいがきっとちょうどよいのです。笑
願わくば、一時のドキドキではなく、ほんとの恋になるといいな、という願いを込めて・・・



2019.08.04

title:まばたき


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