20-1:唇が離れるたびに切なくなる


-Heroine Side-

大勢のうちの一人でもいいから
傍にいたいと願った。




好きな人ができた、と元カレにフラれてから半年。
そろそろ次の恋でもしようかと思っていた頃
会社の同期のナミが「いい店がある」と紹介してくれたのが
サンジくんが経営しているバーだった。

「サンジくん、この子が噂のユイ。」

噂、ってどんな噂よ、と気にはなったけれど
そんなことより、もう私はサンジくんに釘付けで。

「かっ…こいい…」
「は?」

自分が何を口に出したのか気づいたのは
サンジくんに
ありがとう、と微笑まれてからだった。

初対面の人に、あまりにも素直過ぎたこの口を呪う。
確かに目の前のサンジくんは超がつくほどのイケメンだけれど
第一声でそれはないでしょ、私。

けれど、言われ慣れているのか
サンジくんはひいている様子もなく
「よかったじゃない!サンジくん!
 ユイのタイプみたいだし、あんたたち付き合っちゃいなさいよ」

とんでもないことを平気で言ってのけるナミに

「お、いいね。」
さらにとんでもないことを口にする。

そんなバカな、と思いながらも
なんだか二人のペースにすっかり乗せられてしまって

「よ、よろしくお願いします」
気づけばそう、口にしていた。




そんなかんじで始まった私たちのお付き合い。
その日はナミと一緒にサンジくんのお店の料理を食べて
連絡先交換だけで終了。
上機嫌のナミが珍しく全額奢ってくれた。
(ちょっと怖い)

その日のうちにサンジくんからは
「これからよろしくね。」
とそれだけのメッセージが届いた。

最初のデートは昼間の水族館。
2回目のデートで夜まで一緒に過ごし
そっと、触れるだけのキスをした。



顔だけじゃなくサンジくんは中身まで王子様だった。

いつだって大事にしてくれて
いつだって優しくて
おまけに料理まで上手ときた。

文句のつけようのないこの王子様の
彼女が私で本当にいいんだろうか。




最初こそ、顔が好みかつ
ナミとサンジくんに流されて付き合い始めたのだけれど
日を追う事に大きくなっていく、サンジくんへの気持ち。

1ヵ月を過ぎる頃には
私はサンジくんのことが、大好きになっていた。



でも、気持ちが大きくなった分、気づいてしまう。
彼が優しいのは、世界中の女のコみんなに対してだってこと。

私だけが特別じゃないってこと。

「サンジさん、ちょっと聞いてくださいよー」

ほら、今日も
カウンター席には常連の女の子がいて。
あの子もサンジくんを好きなのは一目瞭然。

ドリンクを渡すタイミングで
ぎゅっと握られた手も、振り払うことなく
そのままになっている。

「そりゃァ大変だったなァ」

やっと離れたと思ったら
その手が女の子の頭をなでた。


ズキリ  と
胸が痛む。

「ちょっとユイ、あれいいの?」

ナミの言葉に
机の下の手をぎゅっと握りしめる。

いいわけが、なかった。

でも、私以外の女の子に触れないで
なんて、そんなこと伝えられない。

「サンジくんは、きっと私のこと好きなわけじゃないから。」
「はァ!?あんた何言って」
「一度もね、好きって言われたことないの。」

ナミは私とサンジくんを交互に見比べると
「何やってんのよ、もう・・・」

大きく、それはもう盛大にため息をついた。






「待たせてごめんね、ユイちゃん。
 帰ろっか。」

閉店まで待って、サンジくんと一緒にお店を出る。

さっきの女の子は2時間ほど前に
友達に連れられ帰っていた。

あのままあの子が残って
私は先に帰っていたら
今サンジくんはあの子と一緒にいたんだろうか。

「ユイちゃん」
隣を歩くサンジくんが、ふいに私の腕をひいた。

「ん・・」
そのまま、突然のキス。

「サンジく・・どうし・・んっ・・」

深夜の誰もいない道の真ん中で
サンジくんに強く抱きしめられたまま
何度も唇が重なる。

この腕の温もりも
隣を歩く心地よさも

誰にもとられたくなんてない。

たとえサンジくんの私に対する気持ちが
他の女の子たちと大差なかったとしても。

それでも、一緒にいたい。

「ユイちゃん、なに考えてるの」

少しだけ、唇が離される。

「さっきの子のこと・・・」

びくり、とサンジくんの肩が震えた。

「あの子がどうかした?」

伝えても、いいだろうか。
他の子に触れないで、と。
そんなところ見たくない、と。

でも

「ううん、やっぱりいい。」
「何がいいの?ちゃんと言ってくれよ」
そう尋ねるサンジくんの顔が
近すぎて、見えない。

「私・・大勢の中の一人でも・・いいから。」
「・・んで・・っ」

サンジくんは再び私をきつく抱きしめると
また、唇を重ねた。

「・・ん・・ふぁ・・っ」

今迄とは違う、キス。

息つぎのたびに

唇が離れるたびに

なくなる

大勢の中の一人でもいいから
どうか、どうか

私をあなたの隣にいさせてください。

サンジくんの背中に手をまわし
離れないように、と
きつくサンジくんを抱きしめた。



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***あとがき***

1話で収集つかなかったので続きます・・・!汗


2019.04.17

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