「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 あれから暫く。
 自分の罪を懺悔するとき以外は殆ど立ち寄ることもなかった教会で結婚式を挙げ、ラグナの家で暮らし始めた。元々ミストがラグナに貸していたこの空き家は結婚祝いとして正式にミストからラグナに譲られた。
 町の人たちに祝福され、様々な言葉をかけられたことを思い出す。正直に言うと、ラグナはともかく自分が町中から祝福されることは想定していなかったのでリネットは困惑してしまったのだが。
 ——これから先、自分は老いて命を終えるその日までこの家で家族と生きてゆくのだろう。それはとても魅力的な日々だと思う。子供の頃は、否、大人になってさえ想像すらしていなかった人生の終着点。こんなにも穏やかな人生が自分にもあったのか。

「今日は仕事は大変なのか?」
「いいえ、それほどでも。畑の作物は昨日のうちに全て収穫しましたから、今日はモンスターの世話をして次に撒く種を買いに行くだけですね」

 だけ、とはいうがこの牧場にいるモンスターの数は両手の指の数よりも多い。毎日のブラッシングや餌の管理だけでもそれなりに重労働だろう。
 この牧場で生活し始めて気付いたことだがラグナは牧場のモンスターたちからも慕われている。彼が愛情を込めて世話をしていることをモンスターも理解しているかのようだ。モンスターの気持ちなど、昔は考えたこともなかったが……これもラグナがもたらした変化のひとつだろうか。
 時折、ラグナの仕事を手伝うこともあるが二人で作業しても大変なのに普段これを一人でこなしているラグナを改めて尊敬する。

「そういえば、ずっと聞こうと思ってたんですけど」
「……何かあったのか?」
「僕はあなたを幸せに出来ていますか?」

 ラグナの言葉に思考が停止する。
 確か前にも似たようなことを聞かれた気がする。あの時は「リネットさんは今、幸せですか?」と問われたのだったか。
 あの時は意図が見えない質問に困惑して返事に迷い、結局曖昧な答えしか言えなかったが、今更そんなことを聞くのか。
 結婚生活に幸せを感じることがなければ自分はとうに逃げ出している。いくら自分でも、そんな結婚生活はお断りだ。
 ——ラグナも分かっていて、本人の口から直接聞きたいだけなのだろう。

「ラグナはどう思う?」
「そうですね、僕が少しでも幸せに出来ているなら嬉しいです」

 この青年には敵わない。
 ラグナと生きることを選んだあの日から過去の罪に苛まれることが減った。罪が消えたわけではないが、その罪が毒のように苦しめることはない。
 ただ彼と毎日同じ部屋で目覚め、同じ部屋で眠ることに幸福を感じる。この先もずっとそんな何気ない日々を送るのだ。それはきっと、氷を溶かす春の暖かな日差しのようなもの。

「……ラグナはずっと、私を幸せにしてくれているよ。一生をかけても返しきれないほど、様々なものを貰った。とはいえ、本人には自覚がないかもしれないが」

 何を貰ったのか、具体的には教えてやらないけれど。
 これは凍てついた氷を融解させる優しい日向の話。