「姫の為にクローリカさんから料理を教わって作ってみたんです!」
「………………ビシュナルくんが?」
「な、何ですかその間は」

 ビシュナルが料理を苦手としていることはフレイもよく知っている。毎朝お弁当として彼が渡してくるのは最早使われている食材も分からない状態と化した失敗作が大半だし、結婚前にはカレーライスと称した謎の料理を渡されて感想を求められたこともある。
 風幻竜セルザウィードもお料理大会の折には「フォルテとビシュナルの料理を除けば、うまい料理ばかりじゃったわ」などと口にするほど。
 とはいえ、だ。努力家で諦めることを知らないビシュナルは日々料理の特訓をしているし、恋人として付き合い始めた頃と比べれば彼の料理は格段に良くなっているように思う。最近では弁当に失敗作を渡されることも減ってきたような。

「大丈夫です! ヴォルカノンさんとクローリカさんにも味見してもらいましたから!」

 ビシュナルのその前向きな性格と苦手分野でも決して諦めない姿勢はとても見習いたいものだ。
 尤も、自信満々に振る舞ってくれた料理が形容し難いものであったり、偶然美味しい料理が完成しただけで再現性はないということもよくあるのだが。

「それで、何を作ったの?」
「カレーライスです」
「ビシュナルくん、本当にカレーライス好きだよね」

 カレーライスは結婚してからビシュナルがよく弁当として作ってくれる定番料理だ。実際に食べられるものが完成する確率は低いのだけれど。
 確か一週間くらい前にもカレーライスを作ってくれたことがあった。あの時は野菜が少しばかり大きい気もしたが辛すぎず変な味や臭いもなくそれなりに美味しいカレーだった。
 彼が持たせてくれる弁当で失敗していないものは殆どがおにぎりだし、おにぎりも形が不恰好なことが多いから珍しくカレーを完成させていたビシュナルに感心したことを覚えている。

「僕たちが結婚する前、姫はよくカレーを作ってきてくれましたよね」
「うん、ビシュナルくんの大好物だって聞いたから」
「姫が作ってくれるカレーが本当においしくて、いつか僕も姫の為においしい料理を作ってお返ししたいと思ってるんです!」

 もちろん一人前の執事を目指している以上、料理は避けて通れない道ではありますが——とビシュナルは続ける。

「今はまだ姫ほど上手に作れませんけど……」
「言ってくれたら私も料理くらい教えるのに。……ヴォルカノンさんたちが教えてくれる料理と私の作る料理では全然違って参考にならないかもしれないけど」
「気持ちはありがたいですが姫に食べてもらいたくて特訓しているのに姫から教わるわけには」
「私がビシュナルくんと一緒に料理をしたいって言っても?」
「…………その言い方はずるいですよ」

 夫婦で、或いは将来的に子供に恵まれたら家族みんなで一緒に料理をしてみたいという願望はある。
 セルフィアに落ちてくるよりも前の記憶はフレイにはなく、当然ながら幼少期に家族と過ごした幸せな思い出もないのだから尚更だ。アースマイトである自身がどのような家庭に生まれ育ったのか、そもそも幸せな家庭に生まれたのかも分からないけれど。
 ——二人でお揃いのエプロンをして、他愛ない話をしながら夕飯の支度をする。そんな日常に、ほんの少しだけ憧れている。


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