スバルと結婚して数日。家族を亡くし、これまでベイロンをはじめとしたターゲスアンブルフの同胞たちと行動を共にしてきたクラリスにとっては慣れない日々の連続であったがそれなりに穏やかな日常を送っていた。
戦いばかりであまり料理などする経験がなかったから上手く出来ているか自信はないけれど、最愛の人を想いながら料理を作るのは楽しいし、家に帰れば彼が出迎えてくれるというのも忘れかけていた家族の温もりを思い出させてくれる。
——かつてアズマを滅ぼそうとした自分がこのような平穏な日々を送っているなど、少し前までは想像もしていなかっただろう。罪を自覚して罰が与えられることを望んでいた。
今もまだ自分のことを許せるようになったわけではないけれど、スバルが諦めずに手を差し伸べてくれ、親代わりのような存在だったベイロンや冬の里の神フブキの支えもあって漸く自分もこのような日々を送ってもいいのだと思えるようになった。
「クラリスさんは幸せですか」
そんなスバルの問いかけにクラリスは首を傾げる。
スバルと結婚する前の自分であれば決してその言葉に首肯することは出来なかっただろう。幸福を感じるほど、自分がこのまま幸せになってもいいのかと葛藤していた。
「あなたが私の幸せを望んでいてくれる限りは」
正直に言えば、今だって迷いはある。この幸せな日々がいつか壊れてしまうのではないかという恐怖も。
それでも他でもないスバルがクラリスの幸せを望んでいると言ったのだ。だから自分は誰よりも幸せにならなければいけない。
「だったらクラリスさんが不幸になることはありませんね。オレがクラリスさんの幸せを望まなくなることはないですし、絶対に幸せにすると誓って結婚しましたから」
「あなたはまたそういうことを……。いえ、嬉しいとは思っていますけど」
この人には敵わないな、と思う。絶望の淵にいた自分を救ってくれた時点で一生敵う筈もないのだけれど。
「スバルさん……は聞くまでもなく幸せなのでしょうね」
「それはもちろん。クラリスさんがいて、笑ってくれていますから」
まっすぐにそう告げられたら流石に頬が熱を持つ。
贖罪の為に生きるつもりだった自分が、一度は敵対しその命を奪おうとした相手と恋に落ちるなど。きっと今の自分は亡国の皇女とは思えぬような表情をしてしまっている。
「クラリスさんが毎日オレの為に料理をしてくれていると思うとそれだけで幸せですし」
「ふ、夫婦とはそのようなものだとベイロンやザザさんから聞いて……!」
夫婦とはどのようなことをすべきなのか、特別なことをする必要はあるのか。恋も知らなかったクラリスにとっては初めてのことばかりだったしアドバイスのひとつでも貰えたらと聞いてみたら愛妻弁当を用意すればそれはもう泣いて喜ぶだろう、なんてことを言われたような。
……泣いて喜ぶ、というのは流石に大袈裟だと思うが確かにスバルは日常的に動き回っているし忙しくて食事をとる暇もないというときに弁当があれば助けになるのではないかと自然と作るようになった。
まさか弁当を用意してもらえるとは思っていなかったのか最初こそ驚いていたが今では夜になるとその日の弁当の感想を嬉しそうに語ることもある。
「……ですが、スバルさんが喜んでくれるのならこれからも作り続けたい、です」
——幸せになってもいいのだと教えてくれた人が幸せだと思ってくれるのならば。
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