白い毛並みをそっと撫でる。それはもふもふしていて柔らかく、気持ちの良い触り心地。
 この魔物がモコモコと名付けられた理由がよくわかる——なんて口にすれば本物のモコロンは怒るだろう。オイラはモコモコじゃない、と。

「こうしているときのクラリスさん、本当に幸せそうですよね」

 モコロン……の姿に化けたスバルはクラリスの膝の上でそう口を開く。
 元々は神々を殺そうとしていたクラリスの真意を探る為、彼女の本心を知る為に習得した化け術だったがまさか結婚してからも使うことになるなんて、人生はどう転ぶか分からないものだ。
 本物のモコロンはクラリスに撫でられるのを嫌がっているし嫌がる相手に無理強いするわけにもいかない。スバルとしてもクラリスが嬉しそうに顔をほころばせる姿を見られるのでこの時間は嫌いではないのだけれど。

「モコロンさんは撫でさせてくれませんけど、スバルさんが代わりにモコロンさんの姿になってくれますから」
「クラリスさんの望みとあらば、いつでも」

 コタロウのように里の人に悪戯を仕掛けて楽しむような年齢でもないし、当然ある程度は好きに化けられるその能力を悪用するつもりもない。
 だからスバルとしてはもう二度とこの力を披露することはないのだと思っていたのだが付き合い始めて間もない頃のクラリスの願いで一時的にモコロンの姿に化けた。それ以来、今でも時折モコロンや小さな魔物に化けてクラリスに撫でられている。
 ——モコロンの姿とはいえ、最愛の人の膝の上でひたすら撫でられるという状況は冷静になって考えるととんでもないような気がしないこともないけれど。

「何なら寝るときもこの姿になりましょうか?」
「そ、それは流石に……いえモコロンさんと一緒に寝ることが出来るというのならそれはとても素敵なことだとは思いますけど逆に眠れなくなる可能性もありますし何よりよく考えたら元々はスバルさんが化けた姿で」

 一息にそう言葉を紡ぐクラリスが微笑ましくてスバルは思わず笑みをこぼす。締まりのない顔をしてしまっているような気もするが、モコロンの姿なので人間の姿よりは誤魔化しがきくだろう。
 魔物のモコモコよりは大きめとはいえ人間よりも小さい姿なのだから抱いて寝るのにちょうどいいサイズ感なのでは、とは思わないこともない。

「それに……」
「クラリスさん?」
「一緒に眠るのならスバルさんには元の姿でいてほしいと……け、決して変な意味はないのだが!」

 頬を朱に染めそんなことを口にするのだから今すぐにでも元の姿に戻って愛らしい妻を抱きしめたい衝動に駆られるのも仕方のないことだと心の中で言い訳をする。
 結婚して夫婦の関係になってもうそれなりに経過している筈だが彼女はいつだって夫婦らしい接触には慣れないらしい。付き合い始めたばかりの頃も緊張してしどろもどろになることがあって、その姿もまた可愛いなんて思ったりもした。

「オレも、モコロンの姿でクラリスさんに愛でられるのも嫌じゃありませんけど人間の姿でクラリスさんの隣にいられるほうが嬉しいです」
「あ、あなたはまたさらりとそんなことを……」

 モコロンの姿では手を繋ぐことも抱きしめることも出来ないから、別のものに化けたとしても最後には人の姿で隣を歩きたい。