※主人公スバルと嫁カグヤの便宜上CP表記してるけど恋ではない話

 ——経験を犠牲に、幼馴染の蘇生を願った。
 腕の中で体温を失いつつあった幼馴染に僅かながら温もりが戻る。止まっていた筈の心臓も鼓動を再開した。死にゆく命を何の代償もなく救うのは大地の舞手と言えども不可能だった。
 記憶は過去にアマカケルモコシロノミコトへと差し出してしまっている。己の命と同価のものを差し出せないのならば別の何かを捧げるしかない。
 それは今まで築き上げてきた人々との信頼か。或いは積み重ねてきた経験か。どちらも差し出せないのならばこれまで里長としての活動によって得てきた財産を全て捧げるか。それらで大切な幼馴染が救えるのなら何も惜しくはない。

 そうして差し出したのは積み重ねた経験だった。ここまで戦って、大地の舞手としてそれなりに強くなったという自負はあった。アズマの国を救えるほど、なんて言うつもりはないが少しくらいは神々の力になれているのでは、と思う程度には。
 今までであれば軽々と振るえていた片手剣がやけに重く感じた。これが経験を差し出した代償によるものか、と気付くのに時間はそうかからない。この程度の代償で済むのであればと自分の中の欠落を飲み込んだ。

 ——同郷の幼馴染であるカグヤのことはずっと忘れてしまっていた。
 元々は故郷の里で大人たちが決めた許婚。他に若者がいない寂れた里だ。自分たちは早く結婚して一人でも多くの子を成すことを望まれていたのだろう、ということはまだ恋情も知らぬ子供だった頃から何となく察していた。
 万が一、使命も何もなく故郷で一生を終えていたら自分はカグヤと結婚し、子供に恵まれていたのだろうとスバルは思う。だが彼女のことをどう思っていたのか、と聞かれたら分からないと答えるほかない。
 少なくとも……大人たちに決められた許婚とはいえ、彼女と結婚する未来は想像出来ていたしそれが嫌ではなかった。それはきっとひとつの愛の形ではあった。ただし、恋であったかと問われたら恐らくそうではなかったのだと答えるだろう。
 自分もカグヤも狭い世界しか知らなかった。だからその狭い世界での僅かな経験から相手へ抱いた特別な情を恋だと誤認していた。

「…………カグヤ、」

 自分の中に確かにあるある幼馴染への感情で、欠落を埋めるのだ。