夏の里を元気に駆け回るカグヤの姿にクラマは思わず息を吐いた。
 ——決して快適とは言えない、立っているだけでも汗ばむような気候の中をいつもの調子で走り回るなど自分には真似できないことだ。余程のことがない限りは真似する気など最初からないのだが。
 お人好しなカグヤのことだ。きっと夏の里の誰かが困っているのを見かけて手を差し伸べたとか、そんなところだろう。先日、秋の里でも同じように困っていた里人を助けている姿を見かけたところだ。
 クラマ自身もカグヤに助けられたことがないわけではない。助けてほしいとは一言も言っていないのに「私がそうしたかっただけですから」なんて言いながらクラマの困りごとを解決する手伝いをしていたこともある。

「お前はいつも忙しそうだな」

 暑い中、嫌な顔ひとつせずに動き回るカグヤにそう漏らせば笑顔が返ってくる。

「毎日充実しています」
「お前らしいというか何というか……。時々でも休まないとバテるぞ」

 大地の舞手であるカグヤを頼りにしている者は多い。普段態度で示すことこそあまりないが、無論クラマもその一人ではある。
 まるでゲームの中の勇者のように困っている人を助け、世界を救う為に行動できる人。頼りにされるのも当然ではあるが、だからこそもう少し自分のことを優先しても良いのではないかと思うことがある。
 尤も、大地の舞手にしか出来ないような仕事も多いしどうしても彼女への負担は増えてしまうのだが。

「そういうクラマさんは夏の里まで出向くなんて珍しいですね?」
「お前は一体俺を何だと思ってるんだ。……まあ、積極的に来たい場所でもないのは否定しないが俺も年がら年中秋の里にいるわけじゃない」
「それは知ってますけど……クラマさん、夏の里の日差しは苦手だと思ってました」
「苦手だが?」

 じりじりと肌を焼くような日差しも、汗が噴き出しベタつく感覚も、秋の里ではあまりないものだ。
 浜辺で感じる潮風は心地よいものではあるし、汗をかいたあとに入る温泉は気持ちいいし、悪いことばかりでもないが自他ともに認める出不精であるクラマにとっては余計に不快に感じることが多いのも事実である。
 もしも秋の里がこのような気候だったなら社から一歩も出ずにゲームをして過ごす日々だったかもしれない——今もそういう風に過ごす日はあるけれど。

「カグヤ」
「何でしょう?」
「あまり無理はするなよ。お前が倒れたら心配する奴らが大勢いる」

 慌てふためく奴も、心配のあまり自分の仕事が手につかなくなる奴もいるだろう。自分もそのうちの一人である、と面と向かって言う気は今のクラマにはないが。

「クラマさん、ありがとうございます」
「何がだ」
「いいえ、何となく伝えたかっただけです」

 ——そういうところもカグヤらしくて嫌いではない。