「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
作りすぎたと思っていた夕飯が綺麗に平らげられていることにカグヤは少しだけ驚いた。
元々イカルガがよく食べるほうであることは結婚するよりも前から知っていたし、時折居酒屋で美味しそうに何かを食べている姿を見かけてそれを好ましく思っていたけれど。
「イカルガさんって本当によく食べますよね。何を作っても美味しそうに食べてくれるから、つい作りすぎてしまうんですけど」
流石にたった二人で完食するのは難しいかも、と思うほどの料理を作ってしまったのに米粒ひとつ残さず完食してもらえるのは素直に嬉しくもある。
最初はワタラセから魚を差し入れしてもらったので何か魚料理でも、と考えていた筈がせっかくなら肉や野菜を使った料理も一品くらい作りたい——なんて考えているうちに品数が増えてしまった。結婚する前は作りすぎることなんて殆どなかったのに、イカルガが何を出しても喜ぶから。
「カグヤは料理上手ですよね」
「そうでしょうか。あまり料理が得意だと思ったことはないですけど……あ、でも結婚する前に練習はしたんですよ。いろはさんやヤチヨさんにも教えてもらって」
一人……正確にはモコロンと二人だった頃は料理が出来ないわけではなかったが、今ほど味や見栄えにこだわりはなかったように思う。
故郷にいた頃は使命のことばかり考えていたし、旅に出てからは料理どころではなかった。記憶を失って春の里に辿り着いて漸くまともに料理をするようになった、ような。
食べられないほど味が悪い料理を作った記憶はないし苦手だったわけでもないと思うが少なくともカグヤにとって然程得意分野というほどでもなかった。
最愛の人との将来を意識するようになった頃、自然ともっと上達したいと思うようになっただけで。好きな人がいるならそう思うのは自然なことだと微笑んでいたヤチヨの顔を思い出すと今も恥ずかしくなるけれど。
「カグヤの料理は何と言うか……今まで食べてきた料理とは違います。無論、居酒屋の料理は格別ですし都にも有名な店はありますが……」
「イカルガさんは美味しいものをたくさん知っていそうですからお口に合うものを作れるか最初は不安だったんですけど、そう言ってもらえると嬉しいです」
今度はアドネア大陸のほうの料理にも挑戦してみようか、とか。都で流行っている料理があるなら作ってみたいな、とか。そんなことを考えることが増えたのは間違いなくイカルガと付き合うようになってからだ。
店の料理に比べたら流石に味は劣るだろうけれど、好きな人に食べてもらいたくてその人のことを想いながら料理をするのはそれだけで楽しいし幸せな気持ちになれる。
「イカルガさんの為に、これからももっと料理の練習しますね」
「私の為、ですか?」
「はい。だって私が一番手料理を食べてもらいたい相手はイカルガさんですから」
料理をする機会は他にもあるかもしれないけれど、いつだってあなたに一番に食べてもらいたいなんて初心な少女のように願っている。
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