早朝からざあざあと降り続く雨の勢いが漸く弱まってきた昼下がり。
普段であれば牛や鶏の鳴き声で賑やかな牧場も今日は静まり返っている。動物たちも外に出られずストレスを溜めてしまっているかもしれない。
尤もこの牧場の主であるナナミとしては毎日の水やりをしなくて済む分、いつもよりは楽である。流石に数日続くのなら作物の生育にも多大な影響を及ぼしそうだし何か対策を考えなければならないが、時々降るだけであれば恵みの雨だ。
「きみの動物たちがいないとここはとても静かだね」
「わたしは普段より仕事が少なくて楽が出来るけど、動物たちは退屈してるかも」
「こんな天気じゃ放牧するほうが可哀想だし仕方ないよ。きみも動物たちも体調を崩してしまったら大変だもの」
世界的に有名なアニマルトレーナーであるワンタタンは牧場の仕事もある程度は把握してくれている。特に動物に関しては牧場主となって数年のナナミよりも詳しい。
ナナミ自身、ワンタタンと生活を共にするようになってから動物のことで何度か助けてもらっている。動物祭で優勝出来ることも増えてきたとはいえ、牧場主になる前は牧場とも動物ともあまり縁のない日々を過ごしていたのでワンタタンのその知識量に助けられてばかりだ。
「きみが動物たちに囲まれて仕事をしているところを見るのが毎日の楽しみだから、見られないのはちょっと残念だけど」
「そ、それは毎日見られるしそんなに珍しいものじゃないでしょう?」
「うん、でもぼくにとってはいつ見ても新鮮だし飽きない光景だから。動物祭でナナミの育てた動物を見るときもよく育てられているなとは思ってたけど、実際に育てているところを見ると感じ方も変わる」
無論祭りでは審査員として公平に、相手が愛する妻であったとしても贔屓するつもりはないけれど、とワンタタンは付け加える。
牧場仕事は重労働で、常に泥や汗に塗れていると言っていい。そんな仕事をナナミは誇りに思っているけれど、誰かから仕事をしている姿が好きだと言われるのは嬉しいものだ。
——最終的に認めてもらえたとはいえ当初は父ダリウスから猛反対されていたし、今なら反対する理由も分かる。牧場主の家で生まれ育ったのならともかく何の知識もない素人が突然牧場主になりたい、などと言い出したら心配にもなるだろう。
「ワンタタン、わたしのこと甘やかしすぎじゃないかな。甘やかされるのは嬉しいけど」
「だってぼくの大好きな奥さんだもの。それに、きみには事実しか言わないよ」
「ずるいなぁ、そういうの」
わたしだって同じくらいワンタタンのことを甘やかしたいのに。
そう小声で漏らした声は雨音と着ぐるみに遮られて恐らくワンタタンには届いていない。今はまだ届かなくとも、いつか全力で彼を甘やかすとナナミは心に誓うのだった。
title:icca
→