唇が触れ合う。
 ほのかに酒の匂いがして——ああ、これは。酔っている。確実に。イカルガは即座に理解して脳を働かせる。
 まずは水を飲ませるべきか。布団を用意して寝かせるべきか。普段着のまま休ませるのは苦しかったりするだろうか。その場合流石に伴侶と言えども男である自分が着替えさせるわけにもいかないし誰か女性に……ヒスイなら安心して任せられるだろうか。
 イカルガがそんなことを必死に考えている間にもカグヤはふにゃふにゃと笑いながら口付けを落とす。正直に言えばこれはこれで悪くはないとも思うのだが、やはりカグヤの意識がはっきりしているときのほうがいいと思い直す。
 そも、イカルガの知るカグヤはあまり酒を飲むほうではない。全く飲めないわけでもないだろうが夫婦で食事をしている時に彼女が酒を飲んでいる姿は一度も見たことがないし、結婚する前も酒が好きだと話していた記憶はない。
 他の誰かとの付き合いで飲んだのか、それともあまり想像は出来ないが酒に溺れたい気分だったのか。うららかやカナタはかなりの酒豪だった気もするが彼女たちがカグヤをこんな状態になるまで酒盛りに付き合わせるのは考えにくい。

「……イカルガさんが、」
「わ、たしが?」
「隙だらけだったので……」
「は、はあ。そ、そんなに……隙だらけ……でした、か?」

 ——いやまあ警戒すべき対象から外れている伴侶とはいえ、酔っている女性に不意打ち気味に口付けをされているのだから隙だらけだったことは否定できないような気がしないでもないのだが。
 しかしカグヤ以外の相手であれば隙を見せるつもりはないし即座に式神で応戦できる自信もある、とイカルガ自身は思っている。

「んふ、かわいい……」

 仮にも成人男性に対してかわいいとはどういうことだとかそれを言うのならばカグヤのほうが自分なんかよりも遥かに愛らしいだろうとか言いたいことは色々とあるのだが、酔って赤くなったカグヤに好き勝手にベタベタと触れられ何も言えなくなる。これがカグヤでなければ全力で抵抗していたところだが。
 カグヤ、と名前を呼べば蕩けたような笑みを浮かべた。

「イカルガさん……好き……」
「え、あ、ちょっと、カグヤ……!?」

 好き放題して、言いたいことだけ言ってそのまますやすやと寝息を立て始めたカグヤに困惑する。平常心ではなかったとはいえ、自由な人だ。
 取り敢えずは布団に運んで——と考えながらちらりとカグヤに視線を投げる。いつもよりも幼なげなその表情を見られたのだから、たまにはこんな日も良いのかもしれないなんて思ってしまう自分は大概カグヤに甘い。