子供の成長は想像以上に早いものだ。
それは数年前に生まれたスバルの娘——つゆも例外ではなく少し前に新しく買ったばかりの服が既に体に合わなくなっている、と気付いた時には我が子の成長スピードに驚きつつ感動したものである。
せっかくだから家族三人でつゆの新しい服を選びに行こうか、なんて話になったのだが。
「スバル父上もクラリス母上もセンスがあまりよろしくありませんの」
「うっ」
娘の容赦ないダメ出しにスバルは言葉を詰まらせる。隣のクラリスも明らかに動揺していた。
センスがよくない、という認識はなかったが最近の子供が好むものを知らないのは事実。自分が子供の頃も……昔の記憶を全て取り戻したわけではないが、修行に明け暮れていて子供らしい日々を送っていなかったような気がするので自分の経験から推測することも難しい。
クラリスのほうも彼女から直接聞いたわけではないけれど恐らくは似たようなものだろう。
そも、つゆは年齢の割にませた子だ。大人の女性が化粧をする姿を見て自分もしてみたいと言い出すこともあれば、親が読んでいる小難しい小説を読みたがることもある。
素敵なレディは服にも気を遣うものだ、と最近ではファッションの研究に余念がない。クラリスに連れられて服を買いに出かけたときも全て自分で選んで完璧に着こなしてしまった。
そんなつゆからすれば普段からファッションの研究よりも剣を振るうことを優先するような両親のセンスはどうしても微妙なものに見えるのかもしれない。
「ベイロンにファッションについて教えてもらうべきでしょうか……」
「……ベイロンさん、ファッションとか詳しいんですか?」
「私よりは詳しいかと……私はそういうことに関心がなかったので……いえ無論皇女としてどこに出ても恥ずかしくない身なりを心がけてはいましたが」
クラリスの場合、アズマの国の出身ではないから和装は尚更詳しくないかと納得する。
つゆは西洋でしか見ないような煌びやかなドレスにも興味があるようだが生憎アズマでそのような服を扱う店は限られている。スバルとしては元気にあちこち動き回る愛娘には出来るだけシンプルで動きやすい服を着せたいと思うのだが、つゆは「父上の選んだものはワタシの好みではありませんの」と一蹴した。
「スバル父上もクラリス母上も、都で流行りのファッションを知らないのではなくて?」
正直に言えば都どころか四季の里の流行さえ把握できているか自信はない。
衣服ではなく食に関することであれば分からなくもないのだけれど。いろは茶屋で新作の団子が大層評判がよく都のほうから食べに来る観光客もいるという話も聞いているし、スバルが畑で育てている作物も今の時期どれが需要の高いものなのかある程度把握して種を蒔いているし。
ファッションに興味がなく鍛錬ばかりと言われてしまっても否定は出来ないがアズマの国を守る為に力も必要だし日々の鍛錬を怠っていざという時に家族を守れない、なんてことになったら後悔してもしきれない。
「でもアズマの国のだれよりも強い父上と母上のことは尊敬していますのよ。だから今日はおふたりにワタシが素敵なレディのファッションをおしえてさしあげますわ」
えへん、と胸を張る愛娘の姿は微笑ましい。
大人と同じように扱われたい年頃のつゆはどうやら両親に自分の知識を披露したいらしかった。時々知ったかぶりをすることもあるけれど、難しい言葉をどこかで覚えてきてはスバルやクラリスに熱心に教えてくれることも多いので教えたがりなのだろう。
——こういうときは素直に彼女の教え子に徹すれば娘は終始ご機嫌である、というのは子育てをする中で学んだことだ。
「それじゃあ、素敵なレディのつゆに色々と教えてもらおうかな」
「そうですね。つゆに都で流行っているファッションを教えてもらいましょう」
「いいですわ。まずこのご本に書いてあった……」
どこからか持ってきた本をパラパラと捲るつゆに視線を投げる。まだ小さな娘も、いつかは大人になって巣立つ日が来るのだろう。それは楽しみでもあり、少し寂しくもあるけれど。
→