「もし私たちが王都へ帰ることがあればあなたも一緒に来ないか?」

 レストランでラインハルトと共に昼食をとっていたアリスは彼の唐突な発言に目をぱちくりさせる。
 今日は午前中、Seedに与えられた任務のひとつである指名手配モンスターを捕縛するという仕事に就いていた。その任務を偶然ベアトリスから休暇を言い渡されて手が空いていたから、という理由で手伝ってくれたのがラインハルトだ。
 最初は何気ない雑談から。今日は手伝ってくれてありがとう、お陰で助かった、と。そんな話をしながら食事を口に運んでいた。そんな中でラインハルトの唐突な言葉に驚いてしまうのも無理はない。

 ——私たちが王都へ帰ることがあれば。
 ラインハルトの言葉を頭の中で反復する。ラインハルトはベアトリスと共に何らかの目的でリグバースへやってきたという。
 事情は聞かされていないし、彼らの立場を考えれば赤の他人である自分には説明出来ないことも沢山あるのだろうとアリスも納得して無理に聞き出そうとは思わなかった。
 彼らは目的が果たされたらその時は王都へ帰ってしまう立場の人たちだ。ずっとリグバースで生きてゆくなど許される筈もない。そのことに少し寂しさを覚えたこともある。
 しかし、だ。目の前の男はあろうことか自分たちと共に来ないか、と提案した。家族でもなく、恋人でもない自分に対して。そこにどんな意味が含まれているのか気にならないと言えば嘘になる。だがそれを直接問う勇気はなかった。

「いいですね。私もラインハルトさんと一緒に行ってみたいです」

 何とかそう言葉を返して、深呼吸。
 ラインハルトさんと一緒に行ってみたい、というのは紛れもない本心である。そんな日が訪れるのかは分からないけれど彼らが王都へ帰る日に自分も一緒に行けるのならばそれは夢のようだとも。
 アリスは記憶喪失だ。彼女を形作っている思い出はリグバースで過ごす日々ばかりでリグバースの外の世界を殆ど知らない。記憶を失う前はもしかしたら王都へ行ったことがあるのかもしれないし、王都で暮らしていた可能性もあるけれど、今のアリスは王都がどんな場所なのか想像もつかない。
 ノーラッド王国の王都、というくらいなのだからリグバースより栄えていて賑やかな大きな都なのだろうという漠然としたイメージはあるけれど。

「王都がどんな場所なのか、私には分かりませんけど……ベアトリスさんやラインハルトさんがいた場所ならきっと素敵なところなんだろうなって思います」

 Seedとしての仕事もあるし、普段から畑で作物を育てているアリスがリグバースを長期間離れるのは難しいだろうしラインハルトも騎士としての任務があるだろうからきっと簡単に叶うものではないのだろうけれど、それでも彼が一緒に来ないかと声をかけてくれたことが心の底から嬉しいと感じている。
 結局のところ、その言葉に含まれている意味は何でも良かった。言葉を受け取ったアリスが嬉しいと思ったのだから。

「だから、いつか一緒に連れて行ってくださいね」
「——それは、叶うならば必ず」

 そんな小さな約束が叶う日の夢を見る。