何回も繰り返してきたループの終わり。
他者を疑い、協力し、時には騙しながら過ごしてきた日々の終わりは少しだけ、寂しい。
ちらりと隣にいたセツに視線を向けた。いつもはループの謎を解明しようと気を張っているようにも見えたけれど、今のセツの表情は穏やかなものだった。
「お別れだね」
そう言ったのはどちらだったか。
別の宇宙から意識だけを繋いでいる私と、もう一人の私を連れて扉の向こうへ消えていったセツ。
願わくは、全員を救いたいと話していたセツのことも救いたいと消えるセツの背中を見ながらあの時の私は思っていた。
*
これはまだ終わりの見えないループに苦しんでいた頃の話だ。
私が百を超えたループの中で出会ったセツは、まだ二十回程度のループしか経験していないセツだった。
そのようなことがある、ということはセツから聞いていたけれど、セツはいつだって私よりもループを経験していて、導いてくれる、そんな存在だった。
だからまだループに不慣れで知識もあまりないセツに色々と知っていることを教える立場になる、というのはどうにも違和感があった。
「初めてかもしれない」
「初めて?」
「私よりもループ回数が少ないセツに出会ったのが」
記憶のない私は宇宙船で目覚め、何も分からないまま議論に参加した。
セツに助けられながらも何とか船の中に潜んでいる未知の敵――グノーシアを議論で探し出し、嘘を暴いてコールドスリープさせるという一連の流れを覚えたことは今でも鮮明に思い出せる。
「君には迷惑をかけてしまっているかもしれないが……」
「そんなことはないよ。セツにもループのことがよくわからない時期もあったんだなって、当たり前だけどそれが少し嬉しい」
いつも手を引いてもらいながら、セツの背中を追いかける側だった。
それが嫌だったわけではないけれど、私だってセツのことを支えたいとずっと心のどこかで思っていたから、偶然とはいえその機会が訪れたことは嬉しい。
今のセツも知識がゼロというわけではないし慣れていないだけでグノーシアだけでなくエンジニアやドクターも経験しているようだけど。
困惑したような表情のセツに思わず顔を綻ばせる。セツのそんな顔を見るのも珍しい、気がする。
「前に君が言っていたんだ。ループを抜け出すその時は全員を救いたい、と」
「……私が?」
「私もそう思う。だから私も、君も、今は苦しくてもループが終わるその時は幸せだと思えるような状態でありたい」
約束しよう、と。
セツも私もこのループの経験を無駄にはしない。一緒にループを終わらせて、笑いながらそれぞれの未来を歩いていこう。
*
それはもう遠い記憶。
随分と昔のような気がするその記憶を掘り起こす。私はセツのことをどうにか救いたかった。
その為ならなんだって出来ると、本気で思うほどに。
「……会えて良かった」
ユズリハ、と、セツが私の名を呟いた。
そして何百と繰り返されてきたループが終わる。
ありがとう、さようなら、と呟いた声は無事に届いただろうか。今となっては分からない。私の意識は闇に溶けて消えた。