——私はただ、この人のことを知りたかったのだ。
ミゲルが釈放されたのは今朝のことだった。
バージェスが彼は変わったのだと訴えて、あまり納得していない様子だったトルーディは渋々ながらミゲルの釈放を決めた。その一部始終を見ていたユズリハは今のミゲルであれば危険はないと思うとトルーディに口添えしたに過ぎない。
正直に言えばユズリハはミゲルと特別親しくしていたわけではなかった。恐らく自分の父親に近い年齢であろう相手との共通の話題なんて持っていなかったし、初対面で自分にも他人にも厳しそうな人だと思って何となく避けてしまっていた。
ミゲルと同じように捕まっていたペンとヤンに反省の色はあまり見られなかったがただ一人、彼だけは静かに自分自身と向き合っているように見えて——そこで初めてユズリハはミゲルという人間に興味を抱いたことを覚えている。
「改めてサンドロックの一員としてよろしく、ミゲル」
「ああ……ありがとう、ユズリハ」
鉄格子の向こう側でぽつぽつと自身について語っていたミゲルの姿を思い出す。
同じ町で暮らしているだけの特に親しくもない相手。自分はこの人のことを何ひとつ知ろうとはしていなかったことを思い知らされた。知らないまま、勝手に苦手意識を持って避けていたのだ。
自覚した途端、相手のことを知ろうとせずに彼を避けていた自分のことが急に恥ずかしくなった。
それ以来、ユズリハは特に用事がなくともミゲルに頻繁に会いに行くようになった。何をするわけでもない。その日の些細な出来事をミゲルに語って聞かせた。
バージェスの説教が素晴らしいものだったとか、オーウェンの料理が今日は一段と美味しかったとか、大きな依頼が舞い込んでいつも以上に忙しかったとか。
もしかしたらミゲルにとって興味のある話題ではなかったかもしれないが彼はユズリハのそんな日常の話を時折相槌を打ちながら静かに聞いていた。
「早速だけど困ったことがあったらいつでも頼ってね。……って言ってもミゲルのほうがサンドロック暮らしは長いし、私の助けなんて必要ないかもしれないけど」
「……いや、その気持ちがありがたい。それに、君にはもう十分すぎるほど助けられている」
どんな事情があれどもサンドロックを危機に陥れたミゲルへと向けられる眼差しは厳しいものである。
本当に反省しているのか疑わしい、自由を与えるべきではないのでは、この人が近くに住んでいることが恐ろしい。本人に直接そのような言葉を投げかける人は殆どいないが、やはり内心ではミゲルを恐れ、避けようとしている人も多い。
牢の中にいたミゲルのことを知ろうと思わなければもしかしたら自分もミゲルが反省したとは思えずバージェスの言葉を強く否定するような未来もあったのだろうか。
「君のその優しさが様々な人間を惹きつけるのだろうな」
「私はきっと、優しくなんてないよ。本当に優しかったのならもっと早くミゲルと友達になっていた筈だから」
ミゲルも恐らくはかつての自分たちが友達と呼べるほど仲が良かったなどとは思っていないだろう。
サンドロックで生活を始めてすぐに一度挨拶をして、それきりだったと言っても過言ではない。時々、用があって教会に立ち寄ることがあれば声くらいはかけることもあったが記憶に残るほどのやり取りは発生しなかった。
「それでも私は君のその優しさに救われた部分もある」
「まあ、ミゲルにそういう風に思ってもらえるのは悪い気はしないけど。私は私のやりたいようにしてきただけだから、恥ずかしいけどね」
きっとこれから先、この人はもっと変わっていくのだろう。その変化を近くで見届けてみたいと、今はそう思うのだ。