この胸に宿るあたたかな熱

 正直に言えば、最初は彼と結婚するつもりなんてなかった。
 この人の人柄に心底惚れ込んでしまい、自身に芽生えたその感情が恋なのかそれとももっと違う種類の愛情なのか分からないまま彼にハートの結び目を渡したことを今でも覚えている。
 サンドロックではハートの結び目を贈るのは愛の告白に等しい行為で、それを渡されたからには恋愛対象として意識されているものと解釈するだろう。
 ——彼が私のことを愛してくれているのだとしたらそれでも良いと思っていたし、私が向ける愛情と彼が向けてくれる愛情の形が違っていたとしても些細な問題だと思っていた。今思うと我ながら不誠実だと思うけれど。

 子供の頃からビルダーという職業に憧れて、無我夢中で勉強してきた。
 まだ学校に通えないくらい幼かった頃は両親や幼馴染のニアを巻き込んで「ごっこ遊び」をしていたし、学校でもビルダーになる為に必要な知識を必死に学んだ。
 ビルダー以外に興味がなかったと言っても過言ではなく、これまで私は恋というものをしたことがなかった。誰かに告白された経験は……もしかしたらあったのかもしれないけれど、恐らく当時の私はそれを告白だとは認識できなかった。恋という感情は未知のものでしかなかった。

「それでも君は、私と結婚する選択をした。ずっと気になっていたんだが……君を突き動かしたその情念は一体なんだ?」

 ミゲルの問いに私は目を丸くした。
 情念。考えたこともなかったけれど情念と呼べるほどの強い感情があったとすればそれは——。

「私がミゲルを幸せにしたいと思ったし、ミゲルとなら私も穏やかに生きていけるだろうと思った。この感情に名前をつけるならやっぱり愛、なんじゃないかな」

 結婚する前、私がイメージしていた恋はもっと身を焦がすような……燃えるようなものだった。今はまだ考えられないけれど将来はそのような感情を抱いた相手と結婚するのかもしれない、とも。
 しかし私がミゲルに対してそんな感情を抱いたことは一度もない。もっと穏やかで、優しくて、あたたかなものだ。これが恋と呼べるのかは分からないけれど、引っくるめて愛と呼ぶに相応しい感情ではあると思う。

「君のそのような考え方は嫌いではないが、」
「うん?」
「……いや、他でもない君にそう思ってもらえて光栄だ、と。そう思っただけだ」

 ミゲルの言葉に私は笑みを返す。嗚呼やっぱり私はこの人柄に惚れたのだと改めて実感する。
 ——渡したハートの結び目を若い娘の気の迷いだと馬鹿にすることもなく、プロポーズの言葉も真剣に聞いて応えてくれた。年齢も立場も関係なく、対等の存在として情を向けてくれるこの人のことが私はどうしようもなく好きなのだ。