そしてユダは引き金を

 ギムレー教団最強の駒。ギムレー様にとって僕がそれだけの存在でしかなかったとしても構わない。
 僕はそれでもギムレー様の手を取る。その為ならば世界だって、血を分けた姉弟だって敵に回せる。後悔なんてしていない。
 ギムレー様。僕はあなたを見捨てはしない。誰に罵られたって僕だけはあなたの味方で在りたいんだ――母さん。
 あなたが抱きしめてくれたあの温もりがあるから、僕は孤独じゃない。

 マーク、と呼ぶ悲しげな声が聞こえて思わず顔を上げた。視線の先にいたのは僕と同じ色の髪を持つ、僕より少し年上の少女。僕の姉“だった”人。
彼女はギムレー様の娘でありながらギムレー様より死んだ父さんと世界を選んだ。僕とは違う道を歩む、敵。
 父さんを殺したのがギムレー様であることは僕も知っている。もしかしたら彼女は僕達の母がギムレー様だとは気付いていないかもしれないけれど。

「何故あなたはギムレー教団なんかに……!」
「あなたには分からないですよ。僕は決してギムレー様のそばを離れない。たとえ姉を殺さなければならないとしても」

 魔導書を開いて目の前の姉を睨みつけた。
彼女が覚醒の儀を行ってしまえばギムレー様が死んでしまうかもしれない。それだけは何としても阻止しなければ。
 母さんは邪竜ギムレーの器に過ぎないと僕も分かっている。それでも僕にとってはたった一人の母さんだから、一緒に生きたい。僕の行動の理由はそれだけだ。
 ギムレー様と一緒に世界を滅ぼしたいとか、人を殺すのが楽しいとか、そんなことを思ったことは一度もない。

「あなたがギムレーと共に生きるというのなら、私がそれを止めてみせます。あなたの姉として」
「ギムレー様の邪魔をするのなら容赦はしません」

 本当は戦いたくなかった。今更そんな甘いことは言ってられない。
 姉の目を見ていると決意が揺らぎそうで、僕は視線を逸らしたまま魔法を放つ。見知った人の足元で爆発が起こり、悲鳴が聞こえた。

(ギムレー様……僕は幸せです。あなたの駒としてあなたと共に生きていられることが)

 優しかった母さんも、僕を駒として扱うギムレー様も、どちらも僕の大切な母さんだ。僕がギムレー様の手を取り世界が終わったとしても、僕は幸せだと胸を張って言える。
 この道が間違いだとしても、僕は二度と引き返さない。