さよならの音がした

「ルフレ!」

 名前を呼ばれ、ちくりと胸が痛んだ。私の半身であり夫でもある彼が私の名を繰り返す。行くな、と。
 嗚呼、彼に名前を呼ばれるのはこれが最後かもしれないな、なんてそんな呑気なことを考えながら、しかし私は彼に従うつもりなどなかった。
 ルキナ達が生きていたような未来を作らないためにも、私がここで邪竜を滅ぼさなければならない。たとえ愛する彼が引き留めたとしても、だ。

 本当はもう少し彼の隣を生きていたかった。
 記憶のない自分を拾ってくれて、好きになってくれて、感謝してもしきれない。
 そんな彼に何も相談せずに一人で決めてしまった私のことを、どうか許してほしい。
 ルキナもマークも、母親らしいことをしてあげられなくてごめんね。これは私にしか出来ないことだから。

 心の中で愛しい家族に懺悔を繰り返す。
 もう、後戻りは出来ない。彼にへらりと笑ってみせた。

「クロムさん、ありがとうございます。こんな素性の知れない私を好きになってくれて」
「……っ、ルフレ、待て!」
「あなたや、あなたの子孫が生きる世界を私は守りたいから」

 私が邪竜と共に、消えてしまっても。
 きっとあなたの記憶の中で生き続けることが出来るから。だから、ありがとう。