君と生きる

*紅花の章後

 教え子だったユーリスと婚約に至ったのはつい先日のこと。
 戦争が終結し、フォドラ統一を成し遂げてからも決して平穏とは言えない日々を過ごしているのだが――。

「俺の調べた情報によると敵の数は……」
「ありがとうユーリス。君のお陰で助かってる」

 闇に蠢く者、と呼称される敵との戦い。奴らを放置しておくわけにはいかないから、という理由からベレスは率先して敵を調査し討伐する任務を受けていた。
 皇帝であるエーデルガルトは常に自由に動けるわけではないしヒューベルトに反対されることも多い。
 それならばエーデルガルトよりは自由の身である自分が、とこの仕事を引き受けたのだ。
 ――本当はユーリスのことを巻き込むつもりなどなかったのだが。

「そんな危険な仕事にあんたを一人で行かせたらどんな無茶をするか分からねえだろうが」
「それは……その、確かに無茶しない、とは言い切れないが」

 旧王国や旧同盟の兵士や民の中には未だにエーデルガルトの統治するフォドラを受け入れられない者もいるかもしれないし、そういう人にとってエーデルガルトの隣で彼女の指揮を執っていたベレスもまた憎い存在でしかないだろう。
 闇に蠢く者たち以外にそのような人に襲われる可能性だって十分考えられたしそんな時に隣にいれば最低限は助けてやれる、と言ったのはユーリスだったか。

「まあ、あんたの実力なら簡単にやられちまうとは思わねえけどな」

 それは当然、簡単に殺されてやるつもりなんてない。
 まだまだこの世界を見ていたいし、その時となりにいるのはユーリスであってほしい。なんて、戦争中は自分がそんなことを望むようになるとは思わなかった。

 女神の塔に呼び出されて、指輪を渡されて。
 ……本当に、こんな関係になるとは思っていなかった。彼から本名を教えてもらった、という事実が自分の存在は彼にとってそれほど特別なのだと自覚させる。
 尤も、彼の立場上本名が漏れるのも良くないので普段は本当の名前を呼べないのがもどかしくもあるのだが。

「ユーリス」
「どうした?」
「この仕事がひと段落ついたら君と二人で静かに暮らしたい」
「そりゃ悪くない誘いだが、ベレスがそんなこと言うなんて珍しいな」
「……私にも人並みの願いくらいある」

 教師をしていた頃は人とずれていたような気もするし感情も殆ど出していなかった気がするがそれはそれだ。
 ――ユーリスと二人、平穏に過ごしたい。
 そんなささやかな願いを胸に戦っているなんて笑われるかもしれないけれど。