誠凛高校バスケットボール部。
新設校にして、1年目からインターハイ予選を勝ち進む実力を持った高校。
昨年の夏にはインターハイ都予選の決勝リーグで桐皇に敗れ予選敗退を喫するも、冬のウィンターカップでは都予選を勝ち抜き、見事優勝杯を手に入れてみせた。
つまり、今や誠凛高校は全国1位の看板を背負った学校なのだ。
そしてそんな私立高校のバスケ部には今年たくさんの新入生が入部していた。
火神はウィンターカップ後アメリカの強豪校からスカウトを受け、悩みながらも誠凛メンバーからの後押しもあってアメリカへと留学。無冠の五将と呼ばれた木吉鉄平も、膝の故障を完全に治療するべくアメリカへ。
昨年の優勝校としてどこよりも警戒されるはずの誠凛は、今や大事な攻撃と守備の要を失った「付け入りやすい強豪校」という認識となってしまっていた
そのためか否か、スタメン入りしやすいだろうとたくさんのバスケ少年たちがこの誠凛高校に進学を決めていた。
「…ん、ちょっと厳しいかもね」
「…やっぱ火神と木吉の穴に収まろうって奴ら多いか?」
「わざわざ志望動機に書いてくるやつもいるわよ。ヤバくない?」
「度胸がすげえよ」
それだけの実力があって宣っているならいざ知らず。
なんだかんだ誠凛の戦力の要として今も練習に励んでいる黒子や、キセキの世代に対抗するにはまだ少し早いものの全国大会を経験しある程度実力もついてきた昨年の一年生たち。
更には一年生だけで決勝リーグに進んだこともある現在の三年生たち。そんな現在の選手たちを押しのけて、攻守の要を勤めようというのだから、生半可な気持ちで来られても困るというのが今の日向とリコの感想だ。
「…の、」
(ただでさえウチは今年警戒されてるのに、挙句鉄平も火神くんも不在ってんじゃ、今年のインターハイもウィンターカップも乗り越えられない!せめてキセキの世代に面と向かって戦っていけるメンタルの強そうな子が欲しいところ…!)
「あの、すんません〜…」
「カントク。新入部員の方です」
「へっ!?」
耳触りのいいアルトが届いてきて、リコは我に帰り人影に目を凝らす。
そこには人のよさそうな、それでいてきれいな顔立ちの好青年が二人立っていた。
「…わ、」
「こんちゃーっす!」
「…こんにちは…?あれ、えっと」
「ここバスケ部で合ってます?俺ら入部希望なんスけど…」
「…!大歓迎っ、ここ座って!」
部長の日向が入れてくれるお茶を例年通り監督のリコが出して、入部届をみせながら、昨年と同じく新設校ながらに全国優勝を果たしたチームであることや、新設校であるからこそ選手層は厚くないのでベンチ入りしやすいなど、入部のメリットとなる面を話していく。
目の前の二人のうち一人はあまりやる気が読めないが、その身長はパッと見ただけでもかなり高く、もう一人の人のよさそうな派手な髪色の青年はふんふんと話を聞いているが、明らかにそれらの情報はすでに仕入れているという反応だった。
「ええと、じゃあここに記入してもらえる?」
「……あの」
「え?…あれっ黒子くん!?」
「いたのかお前!」
「最初からいました。…あの、渡会くん。君、僕と同い年ですよね?」
「え?」
リコが相も変わらずまだ慣れないウスさの黒子に驚きつつも、そんな黒子の問いかけに何言ってんの?と言わんばかりの表情で振り返ると、黒子の目線の先で柔和な笑みを浮かべる彼は「おう」と愛想よく笑って返した。
「よく覚えてんなぁ」
「この時期の編入なんて珍しかったので。それに自己紹介でバスケが得意だと言っていたのでマークしていたんです。まさかこちらから声をかける前に
「あ、もしかして噂の編入生ってあなた!?ていうか…
(やっぱり!黒子くんのことを認識してるんだ…!)」
「噂になってるの?雲雀…すぐ目立っちゃって、俺なら絶対困るな…」
「いやまあこの時期だしなぁ。二年に編入なんて滅多にないだろうし…こればっかりは仕方ないっていうか。ていうかせらおはその身長でいつでも目立っちゃってるだろぉ?」
にこにこ。笑みを崩さず隣の青年と話しているのは、「とある理由で」この学校に編入してきた渡会雲雀という男だった。
彼は編入初日からその溌溂とした笑顔と高いコミュニケーション力、そしてノリの良さで瞬く間にクラスの人気者となったのだった。
そんな彼は自己紹介で早々に「特技はバスケとギター」であると語っており、その整った容姿もあってかすぐに学年中で女子にも男子にも話題となっているのだ。バスケが得意という編入生。しかも中途半端な時期の転入。何かあると踏んだ黒子は彼の実力を見たいとバスケ部に勧誘するつもりだったのだが、彼は影の薄い黒子を簡単に見つけ、あまつさえ存在感のない黒子のことを「クラスメイト」として認識し、人ごみの中でバスケ部のチラシを他の二年生と配っていた黒子をピンポイントで見つけ出して声をかけるという「当たり前」ではない行動に出たのだ。
黒子としては何者かと気になるのも無理はない。「影が薄い」「存在感がない」というのは彼にとっては個性でありバスケ選手としても日常生活でも(ごくまれに)唯一の長所でもあるのだから。
「バスケ部に入るつもりだったんですか?」
「おん!そもそも編入してきたのもバスケ部に入るのが目的だし!」
「……ん?」
「ってうわ、もうこんな時間かよ!急げせらお、遅れるとセンパイたちがめんどくさいぞ〜!」
「もう夢咲のバスケ部OB雲雀だけでいいのに…OB会とか、しかもあの先輩たちに会わないといけないのほんとにやだ…」
「じゃあな黒子!また明日学校で!先輩方も明日からよろしくお願いしまぁす!」
「します」
さらっと「バスケが目的で編入してきた」という衝撃的な事実を告げられ、リコと日向が固まっている間に、柔和な高身長イケメン二人組はひたすら周囲の視線を集めながら颯爽と走り去って行ってしまった。
「バスケが目的でウチに編入なんて普通ありえないわよね」
「ああ、何だかんだ言っても
わざわざ他の強豪校じゃなくてウチを選んだってことは…」
「何かあるわね、あの二人…出身中学も同じだし」
「まじか、どこなんだ?」
「
「…ん?夢咲?」
「なぁに、知ってんの?日向くん」
「いや、俺じゃなくてコガがその名前出してた気がする…」
「小金井くんが?…あとで話聞いてみましょうか」
「おう」
「…」
明日の放課後から始まる新入生を交えた練習に向け、
*
日向はさっそく部活が始まる前にとチームメイトの小金井のいるクラスへと足を運んだ。というのも、春休みの間もずっと俺たちの手伝いをしてくれていた「とある女の子」をマネージャーに迎え入れるべく、監督はその子に話をつけに行っているのだ。
「ま、“あの子”は断らないだろうけど」
可哀想に、と少し同情しつつも歩を進め、昼食を誘う口実で水戸部や伊月と共に小金井を呼び出す。
「コガー」
「お、はーい!伊月、みとべ!日向来たぞー!」
「ん、今いく」
水戸部は相変わらず特に何か話すということはないが、物腰柔らかに頷いてこちらへとやってくる。四人が揃ったら、彼女持ちの土田にはあとで説明しようと決めて、四人で屋上へと場所を移した。
「んで?ひゅーが何の話?」
「何だ、ただの飯じゃないってわかってたのか?」
「だっていつも一人で飯食うの気にしないじゃん!さっさと食って寝てるじゃん!」
「クラス離れたらそれはそれで気にしなくなるの、日向らしいよな」
伊月の苦笑いに日向は曖昧に笑って誤魔化した。まあ実際一人飯も気にしない俺が突然一緒に飯食いたいとか言い出したら、何かあると勘繰るのが普通か、と日向は妙に納得して頷いた。
「実はさ、夢咲学園中等部のバスケ部について何かしらねえかと思って」
「夢咲…?何でそんなとこの、しかも中等部のバスケ部のこと気にしてんの?」
「名前も知らないな…確かに、何でなんだ?」
伊月も日向に聞き返してくる。日向は先日の新入生勧誘の際にその学校出身の生徒が入部届けを出しに来たこと、噂の編入生がバスケを目的にこの学校に編入してきたらしいことを伝えた。
「えー!?じゃあバスケ部入るために越境してきたってことか!?」
「ぽい。おかしいと思わないか?わざわざ越境してまでバスケしにくるなら、いくらウチが去年の優勝校だからってもっと強豪校いくらでもあっただろ?」
「やっぱ木吉と火神の後釜狙ってるんじゃないか?」
「…とにかく、夢咲学園のバスケ部って強いのかと思ってさ」
「強いよ」
小金井はパンを咥えながら至極真面目にそう言った。
珍しい雰囲気に日向や伊月も少し怖気付くが、小金井は気にせず続ける。
「去年の中学バスケ界騒がせてんだよ、夢咲中バスケ部」
「全然知らなかったぞ…!?」
「監督も知らないの何でだ?」
「さあ…まぁ全中なんて基本帝光の圧勝がいつもの流れだからあんま気にしてなかったんかもね」
「あー…」
さらには今年の全中の間はジャバウォックとの対戦もあり注目度があまり高くなかったらしい。
「おれさー、親戚が夢咲通ってんの。そんで聞いたんだけど、今年新入生になる年の夢咲の選手ってめっちゃ強かったんだってさ。去年も強かったらしいんだけど、なんか交換留学?でアメリカ行ってて全中とか出てなかったって。
で、その夢咲のバスケ部ってキセキとどっちが強い?って聞かれたら、個人では負けてるけどチームならわかんないってレベルで上手いらしいよ」
「まじか!?」
「その編入生は知らないけど、今年入ってきたっていうその夢咲出身の一年生はもしかしたらスタメンやってためっちゃ上手いヤツかも知んないねー」
逸材来た?と日向や伊月も少し表情が引き締まる。
特に今年3年である小金井や土田、水戸部なんかは出場権がないということはすなわち現場での事実上の引退を意味するわけで。
大学受験も控えている今、バスケ部として続けるのか否か、インターハイに負ければウィンターカップまで出しゃばって良いものか、考えているチームメイトがいることもわかっていた。
「ま、とにかく顔見てみたら俺わかるし!名前は知らんけど」
「じゃ、とりあえずこの話はカントクとも共有しとくわ」
「よろしくぅ」
そうして、何とも言えない焦燥感の中で四人は昼食を食べ終えた。