すべての球児にとって
清峰葉流火と要圭は
絶対に忘れることのできない、悪夢のようなバッテリーだ。
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中学生怪物バッテリー、名門 宝谷シニア期待の星。仰々しく書かれた見出しから始まった野球雑誌には、全国強豪野球部74校からスカウトされ、そのすべての勧誘を蹴った稀有な存在として注目され取り上げられている幼馴染みたちの姿があった。
「消えた天才バッテリー、気になる進路先…か」
憶測が飛び交う記事に目を向けてみるが、残念ながらそこに正解はなかった。
故障やらチーム内での確執やらいろいろあるが(いやチーム内の確執という点では一部正解といえるかもしれない)、どれも核心を突くものはない。
まあ、事実は小説より奇なりともいうように、実際にはこんな憶測なんかよりも、もっと面白い展開だったのだから予測なんて付けられるわけもないのだが。
しょうもな、と呟いて雑誌は部屋のごみ箱へ。
さて、今日からは新天地での生活が始まる。必要以上にきゃぴきゃぴするのは苦手だが、それなりの学生生活を過ごし、それなりの大学に行くのだ。
これからはもう、あの傍若無人といえる面倒な幼馴染たちに使いつぶされることもない。好きに休日を過ごし、好きに遊べるのだと思うとせいせいする。
そう思うと不思議と心も体も軽かった。
ふわふわと浮足立つのをなんとか抑えながら、もう二度と会うこともない幼馴染への想いごと封じ込めるように扉に鍵をかけた。
入学式はすでに別日に終わっている。
制服のスカートはすでに少々短く折って、栗色のショートヘアを風に揺らす少女はボーイッシュな印象とは裏腹に、顔がめっぽう可愛かった。
少々色気は足りないが、スレンダーなスタイルと整った容姿はどこかミスマッチで、人を惹きつける。
じゃかじゃかと彼女の頭のサイズでは少々大きめのヘッドフォンからは、小さく音漏れがする。伏し目がちにスマホを覗く姿すらどこか目を引く美少女は、すでにいくつかのグループを形成しているクラスでもひときわ輝き、少々浮いていた。
(あ、焦る〜〜〜〜!なんか友達を作ろうみたいな雰囲気じゃないんですけど!)
なお、この事態に対し、当事者である莉子は焦っていた。
中学時代は野球、野球、さらに野球!と青春のせの字もなかっただけに、高校生活くらいは分かりやすい学生時代を過ごしたかったのだが、その美貌ゆえに少々浮いていた。
実際少々気も強いが、どちらかというと猫目な莉子はナチュラルメイクとはいえ跳ね上げアイラインも手伝ってきつそうな印象を受ける。
ショートヘアは快活というよりもクールなデキる女感を演出してしまい、詰まる所女子にも男子にも声をかけられることがなかった。き、きまずい。
どうしたものかとペン先で唇をつつく姿さえ、周りからすれば(かわいい)(美人は何しても絵になる)(何を悩んでるんだろう…)と注目は浴びるもののなおのこと声をかけづらい要因になってしまっている。
そんな彼女に声をかける勇者が一人。
赤い髪と黒縁眼鏡をかけ、イヤホンで音楽を聴いているらしい青年は、とんとん、と莉子の肩を叩いた。
(い、行った!)(あいつ勇者かよ!?)(どんな声してるんだろう…)などとクラスメイトが息をのんで展開を見守る中、赤髮の青年は「すみません。たぶんその席、俺のじゃないかと思うんですが」と貼り付けたような笑みを浮かべて言う。
ヘッドフォンを外した莉子は、慌てて「わ、ご、ごめんなさい!」と席を立とうとして、どこか既視感のある顔に固まった。目の前の青年に、莉子は見覚えがあった。
「千早、瞬平…?」
「…はい?」
それが、名もなき都立で、野球部もない普通の高校で、野球とは関係のない普通の青春を送ろうとしていた莉子の一つのターニングポイントになることを、この時の莉子はまだわかっちゃいなかった。