「ふいっ」
植物棟。魔生物を担当する教師、ストラス・スージー先生の指導の下、一年生のアブノーマルクラスは魔術授業を行う運びとなった。
「特殊な苗に手をかざして…『クワンックワンッ』」
スージー先生の口頭呪文で少しずつ大きくなっていく苗は、ググ…と背を伸ばして軽快な音と共に見事に花を咲かせる。
「ふいっ、花が咲きましたぁ」
スージー先生の咲かせた花は淡い色の可愛らしい花で、スージー先生と同じ糸目の顔が描かれている何とも不思議なものになった。
「自分の魔力を『形』として見る!コツは頭の中に『完成形』を思いうかべることでぇす」
がんばってね!というスージー先生の言葉で、うぇ〜いと呑気な返事のままではあるものの、
(僕には魔力とかないから花は咲かないだろうけど…とにかく目立たないように気を付けなきゃな…)
イルマがそんなことを考えていると、植物棟の上階からざわざわと騒ぐ声が聞こえる。
「何か人が…」
「あぁ、上級生ですね。1年の
「へぇ、」
おそらく自分の数百倍魔界について詳しく、俗世を知らぬイルマを笑わないであれもこれも教授してくれるアスモデウスのおかげで、今のところイルマは取り立てて目立った世間知らずを発揮していることはない。時たまクラスメイトやアスモデウスの当然のような行動に驚かされることもあるが、生まれ持って違う価値観を埋めることはなかなか難しい。
しかしイルマの順応力、適応力はおそらく常人ではなかった。
「げぇっ、見ろよ。生徒会だ」
「生徒会は下級生の塔なんてほとんど来ねぇのに」
(へぇ、生徒会とかあるんだ…)
「いったい何をしに…」
「愚問!『
生徒会。この学園の秩序を守るべく設立されたその組織は、今や
しかしそんな生徒会が下級生の塔に来ることなど滅多にないため、皆少し訝しんでいた。…が、そんなことはものともせず、自身が注目されていると信じて疑わず、手に持っている花が鉢を破壊し尽くしている凶暴なものであったとしても気にしない鋼のメンタルを持つサブノック・サブロ。
本人も破壊神と名付けたと満足気だったが、鉢を壊したらその花はそのまま死んでしまうということもあり、評価はB+となってしまった。ナニィ!と叫ぶサブノック。彼は魔力も家系魔術も悪くはないのだが、いかんせんこの傲慢さが良くも悪くも彼の成績を上下させていた。
「フンッ、まったく品のない!」
「おおお!」
「燃える花だ!」
「キレイ、A+です」
「これが気品というもの…」
対するアスモデウス、美しい炎の花を創り出す。
彼の家系魔術は炎ではないが、火に関わる魔術の扱いはバビルスでもトップクラスである。
「花には
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
なにかと争い競い合う二人は今日も騒がしいものである。平和でもあるが。二人のやり取りを楽しげに眺めるクラスメイトを尻目に、入間は最近注目している彼女に視線をやった。
「騒がしいよね、男のコって」
「まぁ!ライアちゃんのお花、とっても素敵♡」
「わぁ、ほんとだキレイ…!」
こっちはこっちで女の子同士、楽しそうである。
ぷくり、と頬を膨らます姿も様になるなぁ、とほのぼの見守っていれば、スージー先生が彼女らのやり取りに気づき、「ふいっ、微かな電流がまるで光の粒のように輝いているわねぇ。評価A+」と評価を下していた。流石のアグライアだ。
彼女は少し変わった家系魔術を使うのだが、アスモデウス同様、家系魔術より電気系魔術を得意としていた。
「魔力にも個性が出るんだ…クララはどうだっ た…」
様々なクラスメイトの様子を観察しつつも、現状ひときわ仲のいいクララの方を見やる。と…明らかに奇怪な花が出来上がっている。これは………なんだ…………????思わず凝視したイルマだが、クララは少し恥ずかしげにその花を服の中へと仕舞い込み隠してしまった。
「今何か…」
「居ぬ!何も居ぬ!!」
「オイッ、こっちなんか変なもん出たぞー!!」
「なんだこれ⁉」
「何で鳴いてるのかしら」
「どう魔力を込めたらああなるのだ…」
今日もアブノーマルクラスは平和である。うん、と頷き入間はその様子を見守った。
「バーンとやったらギャーとなってドバーン」
「いや微塵もわからん。なぜ照れる」
「でもクラりんのお花、かわいい鳴き声してるね?」
「ほんと!?」
「貴様感性がおかしいのか?」
「もー、アリスくんはいっつもそうやって悪態つく。女の子に酷いこと言うのやめな?」
「悪態をつかれたくなければその呼び方をやめろ!」
「(つーん)」
「きっさま…」
ある意味仲のいいアスモデウスとアグライアの二人を視界の隅にとらえながら、イルマは自分の鉢を見る。
残念ながらただの人間であるイルマに魔力なんてものはない。もちろん羽もないので飛行レースでも苦労をしたイルマだったが。
(ごめんね大きくできなくて。
もし僕に魔力があったら…花かぁ、あったかい色がいいなぁ、ふわふわの…)
「『クワンックワンッ』?なーんちゃ…」
そう、イルマ自身に魔力はない。だからイルマは考えもしなかったのだ。
自身の持つ悪食の指輪が、魔力をため込む装置であり、なおかつ吐き出すこともできるという事実を。
そして、突然鳴り響く着信音と共に、悪食の指輪の特性と注意事項を、祖父である学園長から聞かされたイルマは思った。
「もっと早く言え!」と。
「…わぁ、なにこれぇ…」
リードの言葉はアブノーマルクラスの、いやバビルス全ての言葉とあい成った。
_______その日、