ランクアップおよび処刑玉法当日に向け、入間が特訓に精を出している中。
学園内では入間の想像にもよらないちょっとめんどくさいコトが起こっていた。


「なーな、カリオストロちゃ〜ん」

「俺らと遊ばね〜?」

「いや〜まじでカワイイよね君」

「…」


冷えた瞳で男たちを見つめるリリア・カリオストロだったが、そんなカリオストロの様子には微塵も気が付いていないらしい男たち、粘るようにカリオストロに声をかけている。
カリオストロ家の末っ子であるリリアは、その美貌と態度から、仕方ないとはいえ面倒な輩や男に絡まれることは多々あった。そのたび持ち前のあざとカワイイを披露して切り抜けてきたのだが、今回絡んできたのは上級生。しかもちょ〜っとガラも諦めも悪いチンピラであった。


「…あのぉ」

「ん?行く気になってくれた?」

「どこでも連れてったげるよ」

「…私、その、こういうの慣れてなくて…できれば今日は見逃していただけたらって…」

「え〜!?こんなカワイイのに男慣れしてないってマジ!?」

「そんなん優良物件にもほどがあるだろ!」

「だーいじょぶ、俺たちが慣れさせてあげるからさぁ、」

「…はぁ」


小さい溜息をこぼすカリオストロ。絶世の美少女であり、かのトップアクドルであるくろむにも負けず劣らずの美しさを持っていると称されるカリオストロは、基本的に男悪魔の注目の的であり、女悪魔の羨望の中で生きてきた。「カワイイ」の権化であり、「美しさ」の塊のような存在、それがカリオストロであり、彼女もかくあるべきと思い過ごしている。

そんなカリオストロが男慣れしていないなんてことは決してあり得ない。
彼女のそれはキャラクターであり、彼女が守るべきアイデンティティなのだ。
彼女カリオストロは無垢で可憐で汚れを知らない清廉潔白な美しさを纏う少女でなければならない。


「…でも、もうめんどくさいしいいよね」

「え?なんか言った?」

「うん。あなたたちみたいな心根の腐った男たちとはデートなんてできないなって」

「「「…は?」」」

「私みたいな可愛すぎる女悪魔のトリコになっちゃうのはわかるよ?
でもなぁ、貴方達のような低俗で女悪魔の体にしか興味がない悪魔ひととは関わり合いになりたくないの」

「〜〜ってめぇ、黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって…!」

「ちょっと顔がいいからって下手に出てやってたのに!」

「チョーシ乗ってんじゃねえぞ下級生がよォ!!」

「……」


黙って飛んでくる拳を見守っていたカリオストロだったが、突然自分の目の前に現れた大きな体と黒い髪に少し目を見開いた。
その姿は見覚えのあるクラスメイトの姿。


「ジャズくん…」

「センパイたち、こ〜んなカワイイ女の子に手ぇだして、ダッサイなぁとは思わないわけ〜?」

「なんだてめぇ、離せよ…!」

「うわ、しかもリリィどころか俺より低位階ローランクじゃねえか。そんなんでよくカリオストロ家のご令嬢にナンパしようとか思えたなぁ」

「〜〜〜〜!」

「ほらぁ、センセーたちに怒鳴り散らされる前におうちに帰んなよ」

「…てめぇら覚えとけよ!」


バタバタと大きな足音を鳴らして帰ってゆくダサいセンパイ(全員2ベトまたは1アレフ)たちを見て、べーと長い舌を見せつけたアンドロ・M・ジャズ。
ジャズの大きな背中に隠されていたカリオストロは、正当防衛と言えども「可愛いカリオストロ」が他者に手を出してしまう前に誰かから助けられたことで、自分の名誉を守れたことに安堵した。


「ええと、…どうもありがとう。ジャズくん」

「いいえ〜。クラスメイトが絡まれてんだしね」

「紳士だねぇ。さっきの先輩たちとは大違い」

「…ま、完璧美少女カリオストロお嬢様の本音も知れたことだし、今日のとこはチャラってことで」

「…いい性格してるじゃん、アンドロ・M・ジャズくん?」

「そっちこそ」


少しの間にらみ合う二人(というかリリアが一方的ににらんでいただけ)だったが、リリアは助けられたこともあってか、観念した様子でいたずらっぽい笑みを浮かべると、


「…助けてくれたわけだしね。今回は見逃してあげます」

「…」

「また明日学校でねっ、ジャズくん!」


きれいに微笑みながらしっかりと外面を作って走り去る、無邪気で無垢な少女。
その裏側で、ジャズが少しの冷や汗と共に、


「なーんだバレてんのかよ、おっかな…」


彼女から盗んだシルクのハンカチを握りなおすのだった。