「また来たの君」
「ちょっと常連にその言葉はなんだよ保健委員長」

溜息をつきながら手当の準備をすると、態度が悪いと文句を言われた。だって毎回それなりの怪我をしてくるんだ、それもほぼ毎日。もっと注意して行動してほしい。まあいくら繰り返しても毎日飽きずに転んでしまう僕に言われたくはないだろうな。

「今日はどうしたの?」
「見てわかるでしょ苦無でざっくりです」

血がまだ流れている白い腕を突き出された。知らずのうちに溜息を吐いていて、また咎められた。消毒薬を患部に塗る。滲みるだろうに、眉ひとつ動かさずじっと僕の手つきを見ている。

「うわあまた今回もすごいね…名前も保健委員の素質あるんじゃない?」
「それは私が不運って事か伊作、生憎私がこけるのは年に0.5回で、傷を作るのは授業か忍務か喧嘩だ」
「冗談だよ…ていうか喧嘩って」

女の世も楽じゃないんだよ、そう言いながら彼女は治療された腕を見つめた。

「相変わらず仕事が早いね、さすが。もう終いかあ」
「伊達に六年間名前の怪我を見てないからね…」

うん、今日も綺麗に巻けたと思う。僕の保健委員としてのスキルアップに確実に彼女は貢献している。良いのか悪いのか…いや怪我をしないに越したことは無い。

「てか君女の子だろう、くの一だし…あんまり傷を作るのは、」
「くの一になるからこそ、こうやって傷を作って毎日修行してるんじゃないか」

当たり前だと首をかしげる彼女にたじろぐ。

「いやまあそうなんだけど、そうじゃなくて、その」
「…やだいさっくんのえっちー」
「なっ」

僕は君の為を思って言ったのに!まあ茶化されるのはもっともだけれど。顔が一気に熱を持つのを感じた。

「大丈夫だよ私傷の治り早いし、あんまり跡残らないし。それにさ」

別に脱がなくたって、男はいくらでも落としようがあるんだよ。

包帯の巻かれていない方の腕でぐいと手首を引かれた。そのまま口元に導かれた薬指を、ぱくりと咥えられ、舐められ、吸われる。

「ひあ」

上擦った声が自分の喉から出て、僕も名前もぎょっとした。彼女が慌てて離した唇から引かれた銀色の糸がてらてら光った。

「ちょ、本気にしないでよ」
「してないよ!てかいきなり何するんだよ!!」
「ごめんごめんふざけすぎた…いやでもさ、私も立派なくの一でしょう」
「ま、まだ卵だろう」

動揺をそのままに言い返すと、にやりと笑う濡れた唇。

「なんだと伊作、メスになりたいのか」
「うわあああごめんなさい名前さんスーパーくの一!!てか雌って何!!」

ああまあこんなに動けるなら大丈夫だろうな。逃げ回る内に転けて、その僕に躓いた彼女に、被さられた。赤くなる頬をまたからかわれる。年々どうもペースを持っていかれているのが歯がゆい。

指で薬を水に溶かす時、彼女があの日ねぶった指で溶かす時、どうしようもなくいたたまれない気持ちになってしまうのは、きっと彼女が優秀だからで。まんまと嵌ってとらわれている情けない僕は忍者失格だろうか。


150813
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