「聖杯戦争っていうのは、肩書きも権威も要らない、正真正銘の実力勝負ってことか。このボクに持ってこいの舞台じゃないか!」
「聖杯戦争?」
「うわああああ!!??」

 書物を読むのに優しくない少し照明の落ちた図書室に、ウェイバーの声が場違いに響く。後ろから覗き込んだ私に、驚いた彼は肩を大げさに跳ねさせ、あやうく椅子からずり落ちるところだった。周りに人がいなかったからまだ良かったものの、予想よりも大きな声で反応されて私の方も些か面食らった。ウェイバーを囲んでいる書物の山。皆に嘲笑され、てっきりフケて自室にでも帰っているのかと思ったら、また勉強してたのか。

「あんまりうるさくすると他の人に怒られるよ」

 わずかに声を潜めてそう言った。ウェイバーもハッとして、こそこそと、でも恨みがましそうに抗議する。

「だ、誰のせいで!」
「ねえその本、私にも見せてよ」
「はあ!?」

 了承は得ないまま左隣に座る。ウェイバーはこちらを睨みつけていたが、諦めたのか視線を文献に戻した。口は物言いたげに曲げられていたけれど。
 聖杯戦争。七騎のサーヴァントを召喚し闘う、魔術戦争。ケイネス先生も参加するとかしないとかで、その名を耳にしたことはあるが、詳しいルールは知らなかったため、ウェイバーがかき集めた書物たちに私も興味をそそられた。

「オマエ、講義は…」
「ウエイバーくんのいない講義なんかつまらないので〜」
「馬鹿にしてんのか!?」
「はいはい、ごめんねウェイバー。もう今日とってる分の講義は終わったよ」
「うえっ、そんなに時間経ってたのかよ!?」
「もしかしてずっといたの」
「……」

 バツの悪そうに黙るウェイバーは置いといて、積み重ねられた資料から一冊抜いた。開くと古書特有の匂いがする。トオサカ、マトウ、アインツベルン……並ぶ名家の文字列に少しだけ実家を思い出し、そしてすぐに振り払った。

「私はウェイバーの考え、一理あると思ったよ」
「え」
「まあ一理だよ、一理」
「ぐ…」
「だから、」

 こちらをまじまじと見るウェイバーとは視線を合わせず続ける。槍を持った、戦車部隊の古びた挿絵。

「ウェイバーの論文を私はちゃんと読みたい」
「……」

 ウェイバー自身の膝に置かれた左手がまごついている。触りたいと思った。まあ思っただけで実際に手を取れる訳ではないので、ページをめくることにする。

「で、原本読ませてほしいな〜と思って探しに来たんだけど、ウェイバーくんはなにやら怪しげな本を読み漁っていて……?」
「微妙な表現やめろ。……そのケイネスが、」
「ふーん」
「聞いといて興味ないのかよ」

 ないわけじゃない。実際おもしろそうだし。とは言え、ウェイバーと喋りたくて抜けてきただけなので、行き着いた先が本当は私語を慎むべき図書室というのは少し残念だ。それでもウェイバー時折ぶつぶつと呟く。音読ね、勉強では大事だよね。習慣になっているのだろうか。

「聖遺物……」
「ん?」

 ウェイバーはそう言ったかと思えば、バッと手元にあった荷物の封を勢いよく切る。中には深い紅色を湛えた、ボロボロの布切れが収められていた。
 それを見るなり晴れやかな表情に変わるウェイバーと、箱の中身から目の離せない私。
 私たちはこれから、この真紅に幾度となく勇気付けられることになるのだった。


180911
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