(現パロ ハロウィン)
ああ、もう遅刻だ。完全に遅刻だ。1限はすでに始まっている。なんで目覚まし時計も電子レンジもドライヤーも一斉に壊れるのか。仲良しか。しかも朝に。おかげでごはんはちゃんと食べてないし、髪も適当だ。おまけに植え込みか何かにひっかけて切り傷も作ってしまった。そうか、これが厄日。
駅を出て、学校までの微妙な距離を歩く。もうどうせ間に合わないので、走ったりはしない。コケそうだし。
のろのろ足を進めていると、前の方に人がうずくまっているのが見えた。制服、おそらくうちの学校の生徒だ。駆け寄って声をかける。私は一応保健委員だ。
「大丈夫ですか?…あれ、久々知くん」
「あ、名字さん…」
同じクラスの久々知くんだった。朝からミスター1位と話すとはなあ。具合の悪い人を前にどうでもいい事を考えた。でも私の髪、今ぼさぼさだ。やっぱり厄日。
「どうしたの?どこか痛い?」
「ああいや…ちょっと貧血で…」
久々知くんの顔はいつにも増して白かった。貧血って!女子か!いやそうじゃなくて。
「立てる?学校もうすぐだし、少しなら私も支えられるから」
「…ごめん、無理そう…」
「じゃあ先生呼んでこようか。私走って行ってくる」
「ああ、呼ぶなら勘右衛門を……あ」
勘右衛門。尾浜くんか。なんで尾浜くん?そりゃ久々知くんと彼はめちゃくちゃ仲良いけど。
疑問に思いうずくまったままの久々知くんのつむじを見下ろすと、彼は私の膝の少し上辺りを見ていた。その視線がだんだん上に上がって、私と合う。真っ黒な目だった。
「…どうしたの、その傷」
「え?これ?今朝どっかにひっかけて…」
見ると、思っていたより赤く線がにじんでいた。さっきまで気にしていなかったが、意識すると痛い。
「それより…あ、尾浜くんだったね。呼んでくるよ」
「…名字さん」
「え、はい」
「ごめん」
久々知くんはゆるく口を開けて、私の左脚に噛みついた。
歯と舌とで、小さかった傷が広げられていく。
「え、ちょ、久々知く、痛いよ、」
訳が分からなくて、とりあえず足を退けようとしたけど彼の手にがっしりつかまれて駄目だった。
痛い。肉まで咬みちぎられているんじゃないか。ていうかなんでこんなことしてるの、久々知くん。
溢れてきた血をじゅっと吸われて、一段と痛みが増した。もう、無理だ。立っていられない。そう思ったら、久々知くんは離れた。
「っはあ、はぁ…」
久々知くんは半開きの、赤い舌がのぞく口から乱れた呼吸をしていた。
私は痛みに耐えられず座り込む。
「…なんで」
未だに状況がわかっていない私に、久々知くんは微笑んだ。顔色はもういつも通りだった。むしろ頬が少し赤い。
「内緒、ね」
「…は」
「名字さん、立てる?俺が運ぼうか」
言うなり、久々知くんは私の背中と腿の裏に手をまわして、「あ、ごめんカバン抱いといて」私を持ち上げた。いわゆる姫さまのあれだ。
平然と登校しようとする久々知くんに何も言えないまま、私はおとなしく彼の細いけれど強い腕に収まった。
「いやいや、お、下ろして!!」
「え?歩ける?」
「歩く歩く、めっちゃ歩く」
「すごい…結構えげつない量もらったのになあ」
正直フラッフラだが、久々知くんと変な噂になるくらいなら自力で歩く。そして彼とは全然違うタイミングで学校に着かねばならない。あと久々知くん怖い。あの豆腐王子がクラスメイトにリアルに噛みつくスプラッタな趣味があったなんて私は知らない。見なかったことにして平和な学校生活を送ろう。
気合を入れて競歩で学校に向かおうとしたら、久々知くんは私を呼び止めた。
「待って名字さん」
なんなんだもう。臨戦態勢のまま振り向いた。
「これからも俺が貧血のとき、助けてくれないかな」
意味、分からないですけど。
「名字さん、体つよいみたいだし。俺も何かお礼するから。ね」
ね、ってなんだ。首を少しかしげてそう言った久々知くんはかわいかった。
畜生、イケメンだからって何やっても許されると思うな!かわいいけど!!
「助けるって、何を」
私も何聞いてるんだろう。その先を、促してはいけないと、そう感じたのに。
「名字さんの血が欲しい」
私のすぐ目の前に寄ってきて、久々知くんはそう言った。
「俺、吸血鬼なんだ」
Happy Halloween…?
151031
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斜掛