※姉弟設定
ごじょうせんせいがふういんされたんだけど。
器の少年は確かにそう叫んだ。ナナミンというのが果たして誰なのか、すぐに引っ張り出せる記憶には存在していなかったが、それに疑問を巡らせる余裕それよりも、その後。
五条悟が封印された。
脳の処理がすぐに追いつかなかったが、頭の中にぼんやりと、あれのへらへらと浮かべた薄っぺらい、悪趣味な笑みが通り過ぎる。
あれを、封印しようと思うだなんて、悟の方をなかったことにしようだなんて、考えたこともなかった。
「…はは」
全身から力が抜け、タバコやガムがこびりついた汚いコンクリートにへたり込む。周りの人間はみな自分が大事なので私に構わず逃げ惑っていた。
この状況に安堵の笑みを浮かべているのは、呪いでもなく呪詛師でもなく、凡人の自分だった。
大きく大きく息を吐く。混乱した群衆に蹴られようとも構わなかった。痛みよりも初めて手にした自由という希望に全身が歓喜に震えていた。久々に深く吸い込んだ空気はひどく埃っぽく、飲食店からの排気と悪臭が混じった最悪のものだったけれど、それでも胸一杯に染み渡っていく。
「悟」
弟の名を呼んだのはいつ以来だろうか。ずっと忘れたかった名前。世界を簡単に壊せる存在が自分に傅く恐怖。すべてを得られる男が私にだけ、それこそ生まれた時から執着していた。血が繋がっているだけ、姉というだけで。
何もないのだ。私には何も。それなのに求められるおそろしさを、あれは理解できないのだ。当然だ、私だって力を持った化け物が考える事なんか分かるはずなかった。
人類が終わろうが私にはどうだって良かった。私も勿論一緒に消えることも些事だった。悟の存在だけが絶対だった。
悟の掌から抜け出して死ねる可能性があるだなんて夢にも思わなかったのだ。
ようやくあんたから逃げられるのかもしれない。
この醜い感情すら、あれは欲しいと強請るのだろうか。
210426
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斜掛