(≠転校生 ※瀬名→遊木表現 ※若干のあんずちゃん これと同設定)

泉の誕生日はもうすぐだった。欲しいものは何かそれとなく聞くと、出てきたのは案の定、彼の名前で。その彼には申し訳ないけれど私は馬鹿なので、駄目元で頼んでみることにした。

□□□

電話をかけるのは苦手だ。それも、昔はよく話していたのに最近は会っていないだとか、そんな距離をはかりづらい人に。でも嫌だとは言ってられない。そう思いつつも、自室でいざスマホを手にしてから、軽く15分はうだうだとカメラロールを整理してしまった。

「ひ、さしぶり、真くん」

発信ボタンを押したはいいが、なさけない事にどもってしまった挨拶。電話のむこうも戸惑っているようだった。

「ど、どうしたんですか名前さん、僕にかけてくるなんて…?」

なんだか妙に期待させているようで申し訳ない。ごめんね真くん。ひたすら心の中で謝る。でも私は彼にひとつお願いをしなくてはいけないので、その言葉を発した。

「あの、今度泉の家に一緒に行かない…?」
「嫌です」

即答だった。泉ほんとうに信用されてないんだな…。軽く感動すら覚える。

「…泉さんに頼まれたんですか?」
「ちがうよ、私が真くんも一緒だと嬉しいなって…」

勝手な所で泉の好感度を下げてしまっては申し訳ないので、そこは訂正する。

「うっ、名前さんの頼みなら行くべきですけど…でも…!」
「ごめんね…無理しないでいいよ」
「泉さん関係じゃなかったら…!泉さんじゃなければ…!」

好感度なんか気にしなくても、元からゼロに近かったみたいだ。むしろマイナスなのでは。

「ご、ごめん…今度ライブ見に行くね…!」
「ほ、本当ですか!じゃあ、そのときはチケット送ります!」
「いいの?なんかほんとうにごめんね…」

名前さんに、僕たちのパフォーマンスを見てもらいたいんです。そういう真くんの声はきらきらしていた。
羨ましいな、そう思うと少し心が暗くなって、ああもう嫌だ。私はいつもこうだ。

□□□

「お邪魔します」
「はい、いらっしゃい。ゆうくんは捕獲失敗?」
「捕獲とか言うのやめてよ…」

玄関で出迎えてくれた泉は、真くんを連れていないことに関して特に落胆とかはしていないようだった。

「まぁいいや、写真くらいは撮ったんでしょ〜?」
「いや、撮ってないけど」
「はあぁ!?何やってんの名前!!」
「真くんとは電話しただけだよ…」
「ゆうくんの写真、楽しみにしてたのに…」
「私そんな約束してない」
「カメラ目線のコレクションが増えると思ったのに…」

それ、普段は盗撮ってことですか。プレゼント…もとい真くんは来れなかったので、私が泉の家で料理をするという、なんだかよく分からないことになってしまった。
荷物を置かせてもらって、早速キッチンに立つ。

「駄目だよ押してばっかじゃ。真くん繊細だから」
「引いてる暇なんかないよ」

泉はソファに座って、手元の雑誌をめくりながら言った。まあ引いたところで、あの様子じゃあ真くんは追いかけてきてはくれないだろうな。

「あーあ、あんずだったら写真くれたのに」

油断していた。肺と肺の間がすうっと冷たくなった。自分から彼女の話題を振るときは大丈夫なのに、不意打ちだとこれだ。包丁を持っていなくてよかったなあと思う。指を切り落としていたかもしれない。泉の視線はまだ誌面に落とされていたので、私の動揺は悟られていない、多分。

「まぁ、アイツの写真は似たような構図ばっかだけどねぇ」

名前は俺と趣味似てるからなぁ。そう言う泉に一緒にするなと辛うじて返し、息をつく。
気をつけなきゃいけない。手を洗って、料理に取り掛かった。

久々に作ったけれど、なかなかおいしそうにできたんじゃないかと思う。エビフライなんて、かわいいリクエストだ。カロリーとかいつもうるさいのに。まあ、その分少ししか作らなかったけど。私は泉ほど意識が高くないので、食べたいものは食べてしまう。体質的に、仕事には支障がないけれど、周りを見るともっと真面目にやらなきゃいけないなあと思う。
できあがったと声をかけて、テーブルに並べる。泉も私も席に着いた。

いただきます。どうぞ。
おいしい、という言葉に嬉しくなる。さっきの事などなかったかのように。

「泉も18歳か」
「名前なんか年寄りみたいだねぇ」

失礼な。気を抜くと、ぬるい毒を吐かれる。

「結婚できるね」

私は何気なくそう言った。

「ゆうくんはまだだけどね」

日本じゃどっちにしろできない事は、指摘した方がいいんだろうか。

「あぁでも、名前とはできるか」

私がそうだったように、泉だってこれは何気なく言っていることなんだ。そう思っても、心拍は速くなった。泉の顔が見れなくて皿に熱視線を送る。キャベツ、切りすぎたかもしれない。とりあえず、そういえば、言い忘れていたその言葉を口にした。

「誕生日おめでとう」

言うのが遅い、と憤慨しながらも、小さく笑ったのが声で分かった。つられて私も、ゆるく笑った。

Happy birthday!!
151102
151113
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