(現パロ 高校生 ハロウィンでした)

「はっぴ〜はろうぃ〜〜ん」

 勢いよくあいたドアの音に反して、なんとも言えない間延びした声が聞こえた。

「おはようございます名前先輩」
「……おはよう綾部、なんで休日の朝から私の部屋に押しかけてんの」

 今日は土曜だ。土曜の午前8時だ。何してるんだこの子は、私まだ部屋着なんだけど。一応ほかの身仕度は整えたからよかったものの、寝てたらどうするんだ。てかおかあさん!なんで通した!

「ハロウィンだからですよ」

 それ理由になってるのか。なってるか…。いやなってるか…?

「色々気になる点はあるけど、とりあえずひとついいかな」
「どうぞ」
「なんでセーラー服着てんの…」

 綾部は真っ黒い布地に白のライン、赤のスカーフといったセーラー服を着ていた。そしてなぜかスーツケース。

「ハロウィンの仮装ですけど」

 何を当たり前のことを、といったような表情で言われる。

「えっ綾部もっとグロいの着そう…」

 というか綾部のはハロウィンを意識してないような、普通のよくあるコスプレだ。というかスカート。膝丈の揺れる黒いプリーツ。君はそれでいいのか。

「え〜名前先輩こういうの好きだっていうから」
「誰が! いつ!!」
「立花先輩がおっしゃってました。名前先輩は制服モノが好きだと、これで一発だと」

 仙蔵あいつ何言ってんだ!? 仙蔵の意地の悪そうな笑顔が浮かぶ。絶対におもしろがってやっている。去年の生徒会選挙、やっぱりあいつだけ不信任にしてやればよかった。まあでも、私の一票どころで会長様(笑)の人気は揺るぐことはないから意味ないのだけれど。どうせなら私は潮江くんに任せたかった。仙蔵みたいなやつが権力の頂点に立ったら、確実に一部が被害になる。私とか。あと潮江くん。

「綾部その格好で家まで来たの…?」
「3回ほどナンパされました」
「されたのか」
「養ってあげるよ、って」
「しかもなんか重い」
「でも僕には名前先輩がいますから、ちゃんと断わりましたよ」
「ああうん、よかったね」

 三つ折りの白い靴下で私のそばに歩いてくる綾部。妙にリアルなチョイスなのやめてくれ。それも仙蔵の指示なんだろうか。

「ハロウィンて…みんな昨日にお菓子配ってたじゃん」
「当日にやらないと意味ないじゃないですか」

 こんなハロウィンに本気な人初めてみた…その割に仮装適当だけど。

「名前先輩にだけ特別突撃ですよ、うれしいですか」
「うれしくはないかな」
「照れていらっしゃる」

 どこをどう見たら照れてるように見えるんだ。

「ああそうだ、忘れていました」

 持っていたバッグの中から、綾部は黒い猫耳を取り出した…って、えっ。

「これで、ハロウィンぽいでしょう」
「綾部はどこに向かいたいの…」
「名前先輩の所に永久就職です」
「ねえ私普段ツッコミ要員じゃないから疲れてきた」
「しっぽもありますよ」

 うぃんうぃんと動く黒いふさふさ。先にはなんだかグロテスクな…

「なんっつう物持ってんの!! まさかこれも仙蔵が…!?」
「いえこれはタカ丸さんが」

 なんでタカ丸くんまでのってきてるんだ! てかなに、彼そういうの使ってるの、ええ…

「本当は名前先輩につけて欲しかったんですけど、タカ丸さんが『喜八郎がかわいいとこ見せれば名前ちゃんなんてすぐ落ちるよ〜』って言うので今回は僕が」

 おいタカ丸!! もう勉強見てやんないぞ!!
 猫耳を頭に装備する綾部。しっぽ持ったまま。「あ、新品なのでお気になさらず」知らんわ!
 ぐ、とこちらに近づく、アップになった顔。猫目がちな綾部の瞳を見て、なんだかんだその耳も結構にあうな、なんて思ってしまった。

「トリックアンドトリート」
「へ」

 ああそうか、本来お菓子をねだるのが醍醐味なイベントだった。でもなんか、ことば間違ってたけど。綾部は時々抜けてるところがあるからなあ。そう思いつつ、かばんの中に入ったままだった昨日の残りを手渡した。

「はい、クッキー。余りで悪いけど」
「ありがとうございます、名前先輩」

 ぐぐぐと体重をかけてくる綾部。

「え、ちょ、お菓子あげたよね」
「トリック"アンド"トリート、ですよ先輩」

 お菓子頂いたのでイタズラしますね。
そう言ってさらに顔を近づけてきたので、とっさに手でガードした。

「ず、ずるい綾部!!」
「先輩がひっかかるのがいけないんですよ」

 べろりと手を舐められて、背筋が粟立つ。

「ねえ先輩」

 見つめる目は溶けだしていて、なんて顔してるんだ、と指摘したかったけど、そうするとまたいいようにとられそうでやめた。

「…綾部」
「はい」

 返事をした声までもが、なんだかふわふわしているように聞こえた。

「とりあえずお菓子を食べよう」
「はあい」

 案外あっさり引き下がってくれた。退いた彼を横目に、私は綾部をどう誤魔化して何事もなく帰ってもらうかとあいつらへの報復を、忙しく考え始めた。「いただきます」綾部はもぐもぐ口を動かしながらこう言った。

「そういえば先輩のお母様、今日は急遽旅行に行かれたようですよ。お父上は出張だそうですね…大丈夫ですよ先輩、僕がずっと側にいます」

 お、おかあさん! 聞いてないよ!! お父さんは聞いてたけど!! お疲れ様です!! てか綾部ずっとっていつまで居座るつもりだ。スーツケースは泊まるためか。食べ終わりそうな綾部に二袋目を押し付けて、痛む頭を押さえた。



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