(現パロ 高校生)


 放課後、寝過ごした教室はとても静かで、寂しくて、それでいてなんだかとてもわくわくした。少しだけ重い鞄をひっさげて廊下を走る。変な寝相で痺れた腕も気にせず、階段を2段、3段と飛ばして駆け下りた。この時の私は、久々に感じた、よくわからない高揚した気分のせいで失念していたんだと思う。元々運動神経はあまり良くない方だ。最後の踊り場に向かって数段残して大きく飛び降りる。着地は無論うまくいかなかった。

 保健室が一階にあってよかった。この足でまた階段を上るのは出来ないことはないがつらいし、さっき颯爽と下りたせいもあって惨めだろう。左足首がじわじわ痛む。

「失礼します、…あれ」
「先生なら会議中だけど」

 保健室に先生は居らず、代わりになぜか左近がいた。

「保健委員って放課後も当番あるんだっけ」
「無い、用事があったから先生待ってるだけ」
「そうなんだ」
「…足」

 みせて。先生はもうしばらく来ないだろうからと、手当してくれるらしく、左近は立ち上がって棚をいじくった。まだ何も言ってないのになあ。

「よく分かったね」
「いつにも増しておかしな立ち方だったから」

 ひとこと、最初の一言が余計だ。

「靴下脱いどいて」
「…はい」
「で、どうしたの」
「テンション上がって階段を駆け下りていたら着地に失敗しぐねりました」
「馬鹿か」
「おっしゃるとおりで…」

 捻挫だということで、湿布を貼ってもらった。僅かに触れた左近の指先は湿布と同じくらい冷たくて、熱を持った足首に心地よかった。

「…名前もこういうのやるんだな」

 私の足先に目を留めて左近はそう言った。親指から小指まで、私の両足の爪は深い青色に染まっている。昨日の夜塗ったばかりのペディキュア。手の爪は色を付けるとどうも気になってしまうからやらないけれど、足はこうやってたまに遊んでいる。」
「綺麗でしょう」
「…下品だ」
「ひどいなあ」

 笑いながらハイソックスを掴む。履き直そうとしたけれど、湿布がずれてしまいそうだったのでやめた。

「あ、そうだ」
「なんだよ」
「左近にも塗ってあげる」
「はあ!!?」

 ごそごそとスクバの中をを探る。昨日使ったマニキュアは、まだポーチに収まっていた。

「嫌だ!! なんで僕が」
「遠慮しなくてもいいよ」
「してない!」
「ほら足出して」
「だから嫌だって」
「あ、手の方が良かった? ごめん気が利かなくて」
「んな訳あるか!!」

 わーわー言い合っていたが、左近は渋々靴下を脱いだ。座る分の他にもう一つ用意したスツールを使い、体育座りのようにして両足が乗る。血色の良い四角い爪が並んだ。

「左近の爪きれい」
「…さっさとしてよ」
「はあい」

 塗りつぶすのも勿体無い気がしたが失礼して、青を広げる。左近の足は、慣れてないからか少し強張っているように見えた。

「指のばそうとしなくても大丈夫だよ」
「わ、分かってる」

 そういえば男の子の足をまじまじと見るのは初めてだ。揃えられた、少し血管の浮いている裸足。

「はい終わり。乾くまでおとなしくしててね」
「はあ…」
「ねえ、やっぱ手も塗らない?」
「塗らないからな!!」

 その後戻ってきた先生と入れ替わりに、保健室を後にした。足首はまだ痛いけれど、不思議と心は軽かった。

 家に帰って靴下を脱いで、お風呂に入って、布団に寝転がって、そのたびに爪先を見てしまう。ちらちら視界に入るこのお揃いの青を、今ごろ左近も気にしているといい。



151003
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