元々生徒会選挙の期間しか大した仕事はないけれど、その間はみっしりやらねばならない事があって、終わった後は開放感で一杯だった。久々知さんにあまり迷惑をかけることなく終わったのでほっとした。
生徒会はメンバーが結構入れ替わったが、相も変わらず美形揃いだった。なぜなんだろう。「久々知さん、生徒会に入ると思ってた」放課後、最後の委員会が終わった後、人の残っていない教室でそう私が言うと、彼女は困ったように笑った。
「私はそういうの、人前に立つの、苦手だから」
「そうは見えない…」
いつもしっかりと前を向いて、いつだって凛と立っているのに。
「私は、名字さんと同じ委員会になれてよかった」
微笑んで、大きな目をすこし細めて、まっすぐに私を見てそう言った。
「ねえ、委員会はもうあんまり仕事がないけど、これからも仲良くしてくれないかな」
すこし頬を赤くして久々知さんは言った。
「あたりまえだよ、こっちこそよろしく!」
私がそう言うと、久々知さんもはにかんで「よろしく」と返した。
「あ、私のことは名前でいいよ。なんか今更だけど」
「…名前」
彼女は大事そうに少しゆっくりと私の名前を呼んだ。なんだか照れる。
「名前、私のことは兵助でいいよ」
「へ…!?へい…!??」
久々知さんが呼んでと言ったのは、下の名前ではなくあろうことか男の子の名前だった。しかもなんだか古めかしい。
「うん。兵助。久々知兵助」
ぐ、とこちらを見る眼差しは真剣で、冗談ではないようだった。
「へ、兵助…」
「うん。名前」
彼女は静かに微笑んだ。だれかに、似ているような気がした。
「…随分と変わったあだ名だね…?」
「…あだ名かあ……まあそれでもいいか」
「え?」
「ううん。なんでもないよ、名前」
ずっと苗字にさん付けだったから、なんか嬉しいな。そう言った久々知さ…兵助は頬を染めてうつむいた。
「兵助」
「なに?」
「…兵ちゃんでもいい?」
「ふふ、いいよ。かわいいね、それ」
でもたまには兵助って呼んで。そう言って兵ちゃんは帰る支度を始めた。私もそそくさと準備する。
「兵ちゃんは、部活入ってないよね?」
「うん。名前もだよね」
私は頷いた。
「よかったら、一緒に帰ろう」
兵ちゃんの黒い瞳がゆらりと揺れた。
「か、帰る!一緒に!!」
兵ちゃんも帰りたいと思っていてくれたのかもしれない。寄り道とかしても大丈夫だろうか。どんなお店が好きなんだろうか。色々考えながら少し重い鞄を持った。
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斜掛