学校から駅までの帰り道にある商店街を歩く。女の子どうし、華の女子高生なんだから、帰り道は普通、パンケーキを食べたりカフェにでも寄るものだと思う。だけど高校の最寄りには駅ビルとかおしゃれな店なんかない。田舎だから。文房具屋とか、学生にとって大事なものがなくて、代わりに小さいメガネ屋がいくつもあったりする。かろうじてハンバーガー屋はあるけれど。
兵ちゃんはいろいろな話をしてくれた。さすが物知りだ。でも堅苦しくはなくて、おもしろかった。少し低い、落ち着いたアルトの声。
「あ、あそこ寄ってもいいかな」
兵ちゃんがそう言ったのはお豆腐屋さんだった。ちょっとしたチェーン店で、小さいけれど色々な種類の豆腐を売っているお店だ。
「うん、いいよ。おつかい?」
「いや、個人的に」
こ、個人的に。とは。ずんずん店に直進していく兵ちゃんに数歩遅れてついていく。
兵ちゃんは、今日はポニーテールにしていた。結った黒髪が左右に揺れる。シュシュとか、飾りは着けていないのが彼女らしかった。
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「ずいぶん買うね…?」
てっきり豆腐を使っているお菓子でも買うのかと思ったら違った。
木綿、絹ごし、高野豆腐、その他いろいろと、じっくり吟味してはカゴに入れた。
「豆腐、好きだから」
そう言ってまたケースに並ぶ四角を熱い眼差しで見つめる。
「名前は? 豆腐、好きでしょう」
豆腐ばかりを見ていた兵ちゃんの目がばちりと私をとらえる。
いや、好きだけど。
でしょう、って、なんで断言したんだろう。言い間違えただけかもしれないけれど。
「うん。好きだよ」
「うん。知ってる。私は豆腐が好きな名前を好き」
なに、それ。
今日の兵ちゃんがよく分からないまま彼女の目を見つめていると、ひとつ瞬きをした後、くるりと背を向けてレジの方へ行ってしまった。
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豆腐しか入っていない重そうなレジ袋を右手に、私の右を兵ちゃんが歩く。リュックなのは、豆腐屋に寄ることを決めていたからだろうか。対して私はスクールバッグだけを左肩に、その左を歩く。
今日の下校だけで兵ちゃんの知らない部分をたくさん知った。
おとなしいと思いきや、結構、不思議なところがある。
豆腐大好き。これが一番だったけど。こんなに豆腐に情熱を傾けている人は初めてだ。
でも、周りの人は多分ほとんど知らない兵ちゃんを知れた。それはすこし、いやかなり嬉しい。
「名前」
「えっ?」
ぼんやりと歩いていたら急に腕を引かれた。言わずもがな兵ちゃんだ。
「あぶないよ」
見ると、自転車が数台、通り過ぎて行った。
「名前はすぐ考え事するから」
「あっごめん! もしかして話しかけてくれてた…? 聞いてなかった…」
「いいよ。また今度話すね」
くすくす笑われてちょっと恥ずかしい。申し訳ない。
顔を少し赤くしていると引かれた腕から手のひらに兵ちゃんの指がすべった。繋がれた手。
「最初から、こうしておけばよかったね」
こちらを向いた兵ちゃんの髪の毛を、風がゆらしていった。
あんまりきれいに笑うから、呆然としてしまった。と同時に、どこか既視感を覚えた。
変だ。
こんなにうつくしい笑顔を、今までに見たことは、ないはずだ。
立ち止まった私に小さく名前を読んで、指をぎゅっと絡める。
「行こう」
ああでも、もうすぐ駅だね。くすくす、兵ちゃんはたのしそうだ。
私は、狐に化かされたという表現はこういうことではないかというくらい、頭がふわふわしていたけれど、不思議と嫌ではなかった。
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少し回らない頭で、ゆるく会話が流れるなか、駅に着いた。離れた手がすこしさみしい。改札を兵ちゃんに続いて通る。ICカードのタッチ音も続く。
「名前はどっち方面? 私はこっちなんだけど」
「あ、逆方向だ」
「そっか、残念」
残念、だけど電車まで一緒だと、私はたのしくて大声で盛り上がってしまうかもしれない。そしたら兵ちゃんにも周りにも迷惑だ。
「ねえ名前、今度遊ぼう。私の家に来ない? 学校からそんなに遠くないから」
「え」
思ってもみなかったことを言われた。兵ちゃんの家。兄弟とかはいるんだろうか。広そう。勝手な想像だけれど。自室はきっときれいに整頓されている。
「い、行きたい」
「やった、決まりね」
兵ちゃんははにかんでそう答える。
「じゃあね名前、また明日! 明日も一緒に帰ろう!」
そう言って反対側の階段へ身体を向ける。
「うん! また明日!」
そう返して私も階段へ歩き出した。ちら、とまた後ろを見やると、兵ちゃんもこちらを見ていて、おどろいたようだけど小さく手を振ってくれた。
明日も、一緒に。
160430
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斜掛