さあ帰ろう。早く帰ろう。歩いていては夕飯に間に合わないかもしれないので、疲れるけど走ろう。その分めいっぱい食べればよし。

「なんだってそんな機嫌が悪いんだい」

 すぐ後ろで組頭の声がした。思わず足をとめる。肩を揺らさなかっただけ、まだ良かった。追いつくの早すぎでは…。気配に気付けなかったあたり、私はまだまだで組頭もまだまだ衰えたりしていないんだろう。

「今何か失礼なこと考えた?」
「やだなあそんな被害妄想しないで下さい」

 なんでわかるんだ。作り笑いで返したけどこれもまあ、たぶんばれている。

「伊作くんと知り合いだったんだね」
「白々しい…。知っててやったんじゃないですか」
「…人を疑うことは大事だけれど、もうちょっと上司を信頼してくれてもいいんじゃないの」

 どうだか。組頭をひとにらみして前を向く。そしてまた、地面を蹴った。



 尊くんの部屋の障子を開けると、部屋の主である彼はなんとか書類を片付けたのか、屍になりつつ茶をしばいていた。

「おうおかえり名前――……」
「団子!!!!」
「お前帰ってきて早々それか!?」
「手は洗った! 顔も洗った! 装束も整えた!」
「あ、生憎用意してないぞ…」

 なんだって。ずかずか尊くんに近づくと、顔色をさらに悪くして怯えたようにすばやく、ざざっと後ずさった。ちょっと、お茶こぼれますよ。湯呑みを奪って残りをいただく。ぬるい。尊くんのいれたお茶はいつも微妙だ。

「仕方ない……行くよ尊くん」
「どこに」
「甘味処」
「私もうそんな元気残って……第一着いた頃には店閉まってるだろう」
「んなもん気合だよ、忍といえばガッツだ」
「なんだそれ……」

 しまった。つい学園長先生の言葉なんぞ思い出してしまった。あれだ、やはり母校なんか行くと記憶がだいぶ蘇ってきてしまう。思い出したくないところも、じわじわと。あ、気分悪い。その場にしおしおとうずくまった。

「おい大丈夫か…と、とりあえずお茶…」
「尊くんのお茶は美味しくないからいらない…」
「元気そうだなおい」
「げんきじゃないです…だいじょばないです…夕飯まで寝ます…時間になったら起こして下さい…」
「せめて自分の部屋で寝ろよ…」
「むりです」
「はあ……」

 おやすみ、と言う声は優しかった。さすが尊くん。
 忘れよう。ぜんぶ忘れよう。私には今が一番大事だ。



 起こし方が雑だったのは減点対象だけれど、尊くんはちゃんと夕飯に間に合うようにしてくれた。たらふく食べた。いろんな人に軽く引かれた。いつもとあまり変わらない気がするけれど。組頭は「太るよ」などと言ったが、私のカロリー消費量をなめてもらっては困る。明日こそは団子を食べると尊くんに宣誓して、床についた。


160523
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斜掛