目覚めは最高だった。日の出前、澄んだ空気を吸い込む。朝のつめたさと静けさが体に広がる。二度寝するのはもったいないから、鍛錬しようかな。
自室は同僚の皆とは別の、女中たちの長屋の隅にある。組頭の配慮だ。ありがたいけれど尊くんの部屋まで遠いし、特別対応だと言ってやっかむ輩もいる。面倒だ。女性と話せる機会があることは良いんだけれど。
井戸に行って水を汲む。顔を洗うと一段と頭がしゃっきりしてきた。手拭いで顔をふいて、さあ行こうと思ったところ。
「おはよう。本当に早いね、いつにも増して」
振り向くと、寝巻きに薄い着物を羽織っただけの、だらしのない格好の組頭が立っていた。部下が見たらいくらか幻滅するな。私も部下だけど。
「おはようございます」
まだ皆大体寝静まっているので、小さな声で挨拶をした。
「気分が悪いとか言ってたから、一応心配してたんだけど」
「一応ってなんですか」
「元気そうじゃない」
そういってぽすぽす私の頭をなでる。なんかなあ。この年になってまで恥ずかしいなあ。
組頭は私に甘い。ゆるい。散々上司をうんたら〜とか言うけど、私はその他大勢の部下のような扱いを受けていない。
その分他の人からとばっちりもくるけれど、私はこの扱いがけっこう嬉しい。あと私強いし。いざとなったら実力行使だ。
「ああそうだ」
そう言って組頭は、袂をごそごそやって藤色の小さい巾着をとりだした。
「甘味処、行くんだろう。お小遣い」
「まじですか! やった! 組頭大好き! 一生ついてく!!」
「はいはい…。尊奈門にあまり面倒をかけるなよ、名前」
「えっ何がですか」
「……」
ため息をついた組頭はそこらへんにあった大きい石に腰を下ろす。私も便乗して左隣に座る。
「あ、ほどけてますよ」
組頭の左手の包帯の先がだらんと袖口から下がっていた。
「ん〜…直して」
「え〜自分でやって下さいよ。何年包帯巻いて生きてるんですか貴方」
「ちょっと、そこデリケートな話題だからね」
まあ腕だし、自分ではやりにくいといえはそうなんだろう。
包帯のはしっこをつまんで、赤黒い火傷の痕が残る肌をぐるぐる覆い隠していく。私のそれは大部分が背中にあるから、日ごろあまり向き合わないけれど、組頭は毎日これを見ているんだ。じくじくとしたものが胸を侵食する。
「…はい、終わりました」
「ありがとう」
そう言ってまた私の頭をなでる。大きな手。
「本当は私も行きたいんだけど」
「仕事して下さい」
はいはい、といつも通りの返事をした組頭は立ち上がって、自分の部屋だろうか、長屋の方へと向かった。
「鍛錬、しっかりね」
「はい」
もう朝日が昇って眩しい中、目を細めながら私も鍛錬するべく庭に向かった。
160530
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斜掛