(現パロ 転生 高校生)


「斉藤くんはさあ」

 斉藤くんはさあ。
 つづきの言葉は、名前ちゃんの口からなかなか降りてこなかった。教室の薄い緑色のカーテンが、窓から入った風をはらんで名前ちゃんの後ろ髪をさらりと撫でる。広げてあった日誌がばらばらめくれて、罫線だけの真新しいページに落ち着いた。

「僕は?」
「…なんでもないよ」
「なんでもなくないでしょ」
「何言うか忘れた」
「なにそれ」

 僕が笑みをこぼすと、名前ちゃんもつられて笑う。その顔が好きだ。血にまみれた生活の中でも、僕を照らしてくれた笑顔だった。同い年の後輩の僕に、親身になって様々なことを教えてくれた人だった。

「じゃあ僕も言おうかなあ」
「え、ちょ、日直サボろうとしたのは謝るから! ごめん!」
「ちがうよ。まあそれはそれとして後で、ね」
「ええこわいよタカ丸さん…」
「そう、それ」

 それ? と名前ちゃんがまじまじ僕を見る。

「名前ちゃんはさあ、なんで下の名前で呼んでくれないのかなあって」
「え、なにタカ丸さんって呼んでほしいの」
「そうじゃなくて…」
「タカ丸くん?」
「…うん…」

 どうにも他人行儀なその呼び方には未だに慣れない。すっかり下の名前で呼ばれるのが定着している僕に対して唯一、苗字を口にする彼女。せっかく今度は、同級生になれたのになあ。

「やっぱりなんでもないや」
「なにそれ」

 名前ちゃんの手が日誌の上をすべり、今日のページを開く。日付、曜日、欠席者……筆からシャープペンシルに持ち替えても、当たり前のようにうつくしい字だった。

「今日は斉藤くんがおかしかったって書こうかな」
「…普通だよ」
「元気ないじゃん」

 名前ちゃんは目線をペンの先に落としながらもそう言った。その言葉は、的確に僕を突いていた。

「どうしたの、言ってみなさいよ名字さんに」

 優しい。名前ちゃんは優しい。その優しさに甘えてきた付けが、今更になって回ってきているのかもしれない。

「名前ちゃんはさあ」

 どうしてなんにも、覚えてないのかなあ。


160331
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