※にょたゆり
「なにボサッとしてるわけぇ」
泉の声で我に返った。教室の時計を見ると、すでに帰りのHRが終わってから30分は経っていた。荷造りすらしていない、6時間目のノートが開きっぱなしの机に座ったまま。私たちの他には誰もいなかった。泉の言う通りだ。ぼんやり、しすぎていた。
「連絡こないし何かあったのかと思って来たら……さっさとしてよねぇ、帰るよ名前」
「あ、私…今日は別に約束があるから…。言ったよね」
「はあ!?」
驚いた泉はいくらか間を置いた後、「…そういえばそうだったっけ」とちいさく呟いた。
「…髪なんか巻いちゃって」
泉が私の髪をすくう。今朝必死にアイロンと格闘した髪は、そのおかげもあって放課後の今もきれいにカールしている。
「名前がヘアアレンジなんかしてもブスなのは変わんないのにねぇ」
「性格ブスに言われたくない」
泉は私の髪をいじる手を止める。冷えた目でこちらを見た。
「生意気」
毛先から勢いよく髪の毛を引かれる。思わず、声が出る。抜けはしなかったけれど、痛いものは痛い。
「なにすんの!」
「イラッとしたからぁ」
「…ほんっと泉、性格悪いよね」
「そんなの、今更でしょ〜?」
開き直っているところが厄介だ。性格が悪いと、言い張ったところで、それが人を傷つけていい理由にはならないというのに。
「せっかく美人なんだから」
「せっかくって何」
髪をまたいじろうと伸びてきた手をやんわり払うと、逆に泉に握られた。
「私は別に、人に好かれたいわけじゃない」
泉の体が近づく。香水の香りが一段と濃くなる。私これ、好きじゃないな。
「私は名前の傷ついた顔が好き。何度罵ったって許してしまうところが好き。離れられないの、名前は分かってるでしょ」
分かってる。理解してる。だけど、それが嬉しいわけじゃない。
「ねぇデート、行かないでよ」
かすかに震える声で泉は言った。
かわいそうな泉。せっかくきれいに生まれて、きれいに育って、きれいに生きていけるはずだったのに、私なんかのところでずっと立ち止まっている。こんなに醜い性格になってまで。
私は泉に執着していないから、なにもかも許せるんだよ。泉の青い瞳から今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
ああでも泉の、顔だけは私、大好きだよ。私にしか見せてくれない、きれいなその泣き顔。
「ごめんね」
とうとうあふれた、涙の伝ったすべらかな頬をそっと撫でた。
160522
back →
斜掛