※零の妹、凛月の姉
※シスコン
※朔間家はがっつり吸血鬼一族
※諸々捏造



 玄関を開けると、中から凛月が飛び込んできた。日も暮れ出した夕方、ようやく着いた久方振りの我が家のドアを開けたとき。ただいまとか言う間もなく、かわいい弟は普段の様子からは考えられないアグレッシブな出迎えをしてくれた。

「りっちゃん、重い」

 右手のキャリーバッグがすべっていきそうだったので慌てて掴み直す。背が伸びただとか、そんな変化もないのが少し物足りない、つまらない身体だけど、ともかく健康そうでよかった。

「…おかえり、名前ちゃん」

 体重を私に預けたまま凛月は言った。

「…ただいま。とりあえず、中入りたいんだけど」

 そう言ってもはがれない弟を引きずって、ほとんど変わっていない、無駄に広いこの家の中に入った。



 私たちは人間ではない。人とは時の流れがちがう。私たちの時間では、私は零くんより年下で凛月より年上だけれど、人間にむりやりあてはめるとそう変わらない。けれど、どちらかといえば零くんの方に年齢が近いので、彼と同じ年に高校生になった。
 入った学校はみんな一緒だったけど、私だけ普通科だった。卒業する年も違った。兄だけでなく弟まで留年したのでもうなにがなにやら。私だけ一足先に夢ノ咲から出た。
 凛月に散々、帰ってくるときは自分にだけ連絡しろと言われていたので今日は零くんはいない。三人揃うとまた色々あるので凛月に従った。

「なんで名前ちゃん家出たわけ」

 ソファのひとつを占領して足を投げ出す私に、凛月は向かいに座ってそう投げかけた。クッションを抱いてこちらを軽くにらむ。

「今ちょっと時差ボケで眠いからまた後で…」
「はぐらかさないでよ」

 だめだったか。閉じかけた目をこじあけてむくれた顔の弟を見る。

「…零くんも留学したじゃん、だから私も半年くらいは海外行ってみたいなーって」
「名前ちゃんは俺のこと面倒になったんでしょ」

 どうしてそうなるんだ。まあ、それもあるといえばそうなんだけど。年々ひどくなった兄と弟の仲。双方の間に挟まれるのも疲れたので、てっとり早く海を渡って逃げたのだった。

「凛月っていうか、零くんもね…。でもちょっと仲良くなったみたいじゃない、私海外に行ってよかったわあ…」

 目を自分の足先に向けながらそう言った。

「よくない」

 すこし低く、震えた声で凛月が言う。ああほんとに怒ってるなあとか思ったら、もう凛月は私の横に立ってこちらを見下ろしていた。

「名前ちゃんのばか」

 そんな声でそんなことを言われてしまっては、迂闊に反論できない。する気もないけれど。面倒だ。

「…ごめんね凛月。許して」
「許さない」
「そこをなんとか」
「……」

 なにも返してこない凛月。変に思い上体を起こそうとしたが、肩をおされたあげく私の上に覆いかぶさってきた。

「ちょ、っと、凛月」

 がぷり。
 本当はそんなかわいらしい擬音ではないのだが、私の肩口に凛月の唇が触れた。歯が立てられた。肉を通過する犬歯。溢れたであろう私の血液。肌を這う舌、じゅっと吸われる。久々の感覚に慣れない。いや、慣れてしまっても困るんだけれど。

「…うっすい……いつから名前ちゃんそんな身体になっちゃったの」

 口を離して凛月は言った。重いので早くどいてほしい。

「…眠いって言ったじゃん、貧血なの。寝かせて」
「じゃあ俺の血あげるからさぁ」
「やだよ私どちらかと言えばトマトジュース派だし」

 凛月は自分の人差し指に歯を立てた。ぷつりと血がにじむ。それを私の口にねじこんできた。

「舐めて」

 抵抗の声を発しようとしたら舌が自ずと動いて、ぬるりと凛月の指の腹をさわった。鉄の味。匂い。凛月の指が動いて、舌にぐりぐり押し付けてくる。口を開けたまま、みっともなく凛月の攻撃にされるがままな私に、凛月は楽しそうに言った。

「おいしい?」

 私は凛月の腕をつかみ指を口内から追い払って、溢れた唾液と凛月の血液をのみこんだ。

「こんなんじゃ足りないんだけど」

 そう言うと凛月はにまにま笑って、抱きついてきた。全体重が私にのしかかる。苦しい。

「名前ちゃんってば、大胆……♪」

 凛月自ら押し付けてきた白い首筋に、唇を寄せて噛みついた。


160525
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