※瀬名→遊木表現過多
※悪趣味三角関係



「まこ、とくん」

 赤くなった彼の顔が近づく。ほとんどぶつかるみたいな勢いで、触れるだけのキスをした。真くんの眼鏡が私の顔に当たる。それに気づいて照れ笑いしながら「ごめんね」と眼鏡を外した後、また私に向き直る。今度は、長く深いものだった。遠慮がちな舌に私もなんとか合わせようと必死になる。唇が離れた後の物言いたげな表情は、いつもの優しい彼ではあったけれど、男の子の顔をしていた。

「いいよ」

 お互いに初めてだから大変だった。気持ち良いだとかよく分からないけれど、むしろ痛かったけれど、真くんなら全部嬉しかった。



 次の日が学校なことを失念していた。真くんとは同じクラスだから、当たり前だけど毎日挨拶をかわす。なんとなく気まずい。気まずいし、昨日のことを思い出してしまってちゃんと目が見れない。顔も多分赤くなっている。真くんも同じなようで、私たちは分かりやすく、ぎくしゃくしていた。明星くんに、ケンカか! 何かされたか〜? とからかわれて恥ずかしかった。されたというか、したというか。衣更くんがこの場に居たら、きっと変に気を使われていたことだろう。
 今日の放課後は久しぶりに何もなくて、でも真くんは忙しくて、とくに一緒に過ごす予定もなかったけれど、悠長に帰り支度をしていたら真くんと二人だけになっていて焦った。机の中身を整理しているふりをして顔を下に向ける。

「名前ちゃん」

 呼ばれた声に顔を上げると、唇をふさがれた。すぐに離れていく真くん。いきなりだったのでびっくりして何も言えなかった。

「ま、た明日ね!」

 真くんはくるっと背を向けて走り去っていってしまう。後ろ姿の耳が赤い。あ、またねって返せなかった。だって、学校でキスするなんて。初めてじゃないですか。顔を覆う。ほとんど叫びたいくらいだ。恥ずかしい。嬉しい。恥ずかしい。

「ふぅん」

 背後で冷たい声がして、一気に体温が下がった。振り返りたくはなかったが、ゆっくりとそちらを向くと、瀬名先輩が教室に入ってきたところだった。

「い、いつから」
「さあね。相変わらず順調そうで腹立つなぁ」

 瀬名先輩は表情をすこし歪めながらこちらに歩いて、私の隣の席にガタンとすわった。真くんとお付き合いを始めた次の日の朝にも突っかかってきた先輩は、どうやらそういう趣味の人なようで、真くんと仲良くなってからというもの度々牽制だったり何だか歪んだ愚痴を聞かされてきた。

「立って」
「え?」
「早く」

 訳がわからないまま、私は椅子から立ち上がった。

「キスして」
「は」
「ゆうくんみたいに」

 ああ、そういうこと…。瀬名先輩は、よく私に真くんの姿を探し求める。いや、理解できてもやりたくない、こんなこと。抵抗の言葉も思い付かず突っ立っていると、瀬名先輩は私の手をぐっと引いた。仕方ない。きっと拒んだところで私は帰れない。瀬名先輩のきれいな顔に手を添えて、ぎこちなく唇を重ねた。真くん、みたいに。

「ん、…ゆうくんと間接キスなんて久しぶりだなあ……♪」

 それは良かったですね。心の中でそう言った。本当に嬉しそうな瀬名先輩に白けた視線をやって、早く帰ろうと鞄を持ったけれど、瀬名先輩はそれを許さず、私の手を離してくれなかった。
 
「ねぇ、ゆうくんともうセックスした?」

 何なんだこの人は。何でそんな事平然と聞いてくるんだろうか。

「…黙秘権を行使します…」
「へぇ、したんだ」

 しました。昨日。はじめて。
 ふぅん、やっぱりねぇ、とか言いながら真くん絡みの時のみの生き生きした爽やかな笑顔を浮かべる瀬名先輩から目を逸らす。

「ねぇ、どこでしたの。ゆうくんの家?」
「そんなの、どこだっていいじゃないですか」
「あんた、言うようになったねえ…面倒だなぁ…まあいっか、場所は俺の家で」

 そう言うと、私を掴んだ手にさらに力を込めて、教室を出た。

「ちょっと、なにを」
「はあ? あんた今の流れで分かんなかった訳? 何でゆうくん、よりによってこんな女に…」
「いや、だから、説明してください」
「うるさい。静かにしてくんなぁい?」

 いやいや意味が分からない。いっそ大声出して叫んでやろうかとも思ったけれどそうしたら、絶対に瀬名先輩はうまいこと言い逃れるだろう。こんなときに限って頼れる同輩、先輩たちは通りがかってくれない。真くん、はこの場に来たら一番危ない。彼は何でこんな、よりによってこんな人に。



 結局瀬名先輩の家に上がってしまった。一人暮らしなようで、部屋はとてもきれいに整えられていた。というか、物があまり無い。よくあるストーカーみたいに、真くんの写真が壁一面に…とかだったらどうしようかと思っていたけれどそんなことは無かった。でも棚にアルバムらしきものがぎっしりと収納されているのには気づいてしまった。たぶんこれには触れないほうが良いだろう。
 ベッドに座らされてから、嫌な予感しかしない。瀬名先輩は隣に座って、私の手を掴んで離してはくれない。

「ねぇ、ゆうくんとはお風呂に入ってからしたの」
「……」
「まあ、ゆうくんの事だからテンパってそのまま、とかでしょ〜?」

 答えずにただ黙っていても、瀬名先輩の機嫌は気持ち悪いくらいに良かった。空いている方の手で私の頬を撫でる。

「してよ、俺を抱いて、ゆうくんみたいに」

 半ば予想していた事だったけど、いざ先輩の口から聞くとショックが大きい。真くんと繋がった私の身体に、真くんを求めているのだ、この人は。

「む、無理ですよ、そんなの」
「なんで。大丈夫だよぉ、ゆうくんもヘタクソだったでしょ〜?」
「そ、ういうんじゃなくて、いやそれもそうかもしれませんが」
「言わないよ、誰にも。言えないでしょ」
「でも真くんに」
「ゆうくんにも言えないから」

 どうして。真くんにこの事を言えば、絶対に別れる口実になる。

「恋心は複雑な訳」
「はあ……」
「ねぇ、お願い」

 いつも高慢な態度で、私の事をさんざんなじっておいて、そんな思い詰めた顔でそんな台詞を言うなんて卑怯だ。

「名前」

 こんな時にだけ私の名前を呼ぶのだ、この人は。
 私は瀬名先輩の頬に手を伸ばした。

「良い子だねぇ」

 その目はもう、私を見てはいない。


160717
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