(プロデュース科3年)

 どこで間違ったんだろうか。床に強かに打ち付けた後頭部がじわじわと痛むが、それよりも埃が髪に服に腕に付いたのが不快で顔をしかめた。誰だこの教室の清掃担当。仰向けになった私の視界の端に、のしかかってきた日々樹の髪がはらりはらりと落ちてくる。勿体無い。せっかくきれいなのに、この手入れの行き届いていない床にぺたりとついて汚れてしまった。私の頬にもその長い髪がぱさりと落ちてきて、思わず顔上の日々樹と視線を合わせると、目がすうと細められた。私の手首を彼がにぎる。少し角ばった爪がやんわりつき立てられた。
「痛い」
 日々樹は何も言わずに私を見下ろしている。普段賑やかに、いやむしろ煩くしている彼が黙していると、気味の悪いことこの上ない。
「何すんの」
「…何、とは野暮ですねぇ」
 薄く笑みを浮かべた日々樹の顔が近づく。近づいただけで、長い睫毛が瞬いた以外は何もなかったのだけれど、それもまた気持ちが悪い。日々樹の息が間近でかかる。瞳はもうずっと絡めとられたままで、紫の虹彩の中に眉をひそめた私が映り込んでいた。
「私、演劇部には入らないけど」
「…今はそういう話をしたかった訳ではないのですが」
「じゃあ何なの」
「貴女の慈悲が欲しくて」
 演技でも良いので。そう言った日々樹は目を閉じて額を私のものとすり合わせた。
「…よくわからないけれど」
 空いていた方の手で彼の頭を撫でた。柔らかな髪。およそ男の物と思えないような。さらりと梳いてやると、日々樹は閉じていた目蓋をゆるゆると開けた。
「そういう意味ではないのですが」
「私は馬鹿だから、ちゃんと正直に言ってくれないと判らないよ」
「…貴女というひとは本当に」
 その言葉の続きは紡がれず、彼は黙って私の首筋を撫でた。

160812
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斜掛