小学生の時、モブくんはちょっとした有名人だった。えんぴつや消しゴムを浮かせたり、そういうことができる彼は、いわゆる超能力者として噂にのぼった。だから私も彼と話をしてみたかった。私はひた隠しにしていたけれど、彼と同じく超能力を持っていたから。
 ところが私とモブくんは6年間、みごとに同じクラスにならなかった。それどころか、通学路、運動会の組分け、委員会、クラブ活動に至るまで何ひとつ被らなかった。ここまでくると逆に運命すら感じる。もしかして中学も別れることになるんだろうかと心配したが、学区は一緒で同じ塩中に進んだ。それにしても状況は一向に変わらず、彼のことを知ってから数年経ち、中学2年生になってもまだ何の接点もなかったのだけれど。


 必死にノートをとっていたけれど、どうにも頭がぼんやりとする。身体が怠い。見かねた友達が保健室に行った方が良いとすすめてくれたので、その言葉にならって教室を抜けた。
 授業中の廊下はいつもよりひんやりしているように感じる。階段をおりる間もふらふらとしたけれど、気力を振り絞って保健室へ向かった。

 保健室に先生はいなかった。いなかったけれど膝を擦りむいたモブくんがいた。
 …モブくんがいた。

「あ、先生今保健の授業中で…もう少ししたら帰ってくるらしいです…」

 その場には他の生徒は居なかったので、必然的に彼が状況説明をした。なんだろう、喋ってるのを見るのも久々だ。でも喋りかけられたのは初めてだった。体操着だから体育だったのかな。長イスに座る彼に、私は入り口で突っ立ったまま答えた。

「あ、ありがとうございます…。あのさ、モ…影山くん」

 モブくんの目をまっすぐ見るのも初めてだった。私のことを全く知らないと思って敬語を使っていたけどすぐに忘れた。頭が痛い。

「私、超能力使えるんだけど」

 熱で朦朧としはじめたので、自分でもよく分からないけれどいきなり本題に入ってしまった。私こんなに積極的だったんだなあ。

「え? うん知ってるよ」

 しってるよ?

「はいい?」

 間抜けな顔で彼に詰め寄ると、ずざ、と後ずさりをした。心なしか顔を青くして。そんな怯えなくても。

「な、んでしってるの」
「えっ、だって他の人とはなんかちょっと違うものを感じてたし…名字さんすごい隠してたみたいだから言えなかったんだけど…」

 なにそれ。とっくに彼は私のことを存在だけでなく能力まで知っていたし、私と彼との接点は出来上がっていたのだ。いや、それにしたって拍子抜けだ。どたりとイスに座る。倒れるとでも思ったのか、慌てたモブくんが私の腕をつかんだ。

「だ、大丈夫…わっ、熱い…!」

 とりあえず冷えピタ…! とぱたぱた探しまわる彼に、いやまずベッドで寝たいな…とぼんやり起き上がりながらシーツを目指す。靴をぬいでずるずると這い上がり横になった。つめたく張られた布に頬を寄せる。

「あっ、だめだよ名字さん、ちゃんと掛けて寝ないと」

 シーツを掛け直してくれた後、彼は冷えピタもはってくれた。前髪にひっついてうまいこといかず焦る彼に思わず笑みがもれる。

「モブくん、わたし、話したいことがたくさんあって」

 そのあとすぐに睡魔が襲い来て不覚だったけれど、「おやすみ」と小さく聞こえたその声がやわらかくて、心地良い眠りにおちた。


160824
back


斜掛