※気持ち悪い
※生理ネタ


 お腹が痛くなるって、聞いてはいたけれど。腰も重いし気分はだるいし頭痛もする。色々と面倒だし、最悪。発育がよろしくない私には遠いことだと思っていたけれど、自分の体はあっさりと大人になってしまった。
 授業の合間の休み時間、トイレから出るとちょうど影山くんと廊下ですれ違った。成績優秀のイケメン。クラスは一緒だけれど彼と話したことはない。世界が違いすぎてなんだか恐れ多い気もするし、単純に雰囲気がちょっと苦手だった。いつも彼のまとっている空気はわずかにはりつめているように感じる。こちらに向かってくる影山くんに気付いたとき、手に持ったポーチにこめる力が強くなるとともに、手汗がじわりとにじむのが分かった。
 影山くんは私にちらと目をやったようだったけれど、私は下を向いてそれを無視した。絶対に彼には嫌な奴だと思われている、でも彼の事は怖い、しかたない。彼の傍を通りすぎるとどっと気が抜けた。痛みもそのときはきれいに忘れていた。





「名字さん」

 なんで彼が。ようやく家に帰れる、寝れると思い心持ち気分よく下校していたが、一瞬にしてそれは急降下した。立ち止まって振り返ると影山くんがいた。そういえば小学校は違ったけど、途中まで帰り道は一緒だった。いやでもなんで声をかけてきたんだ。

「一緒に帰ろう」

 はあ? と思い切り口に出してしまった。慌てて取り繕おうと何か言葉を探すが見つからない。気まずくて目を合わせない私には構わず、影山くんは私のかばんをすっと奪っていった。

「重いでしょ、持つよ」

 自然にこなされた動作に思わず、うっかり、どきりとしかけた。当然だ、影山くんは整った顔立ちをしているのだから。でも次の言葉で一瞬のときめきは打ち消された。

「身体に悪いからね」

 ぞわりと嫌な寒気が背中を走る。それはただの親切から出た台詞かもしれなかった。けれど私は認めてしまった、影山くんの黒々した瞳が私の下腹をじっとりと撫ぜるように見つめたのを。

「な、んで」

 影山くんは私の問いには答えず、笑みを作ってこう言った。

「大丈夫? どこか痛かったりしない? 頭とか」

 お腹とか。彼の言葉はそう続いているような気がした。彼のファンなら卒倒しそうな、最上級の笑顔で労わられているというのに、私の心臓は嫌な意味で早鐘を打った。

「ああそうだ、忘れてたよ、ごめんね名字さん」

 何も言わない私には構わずに、影山くんはたのしそうに言う。

「おめでとう」

 私は呆然と彼の貴重な微笑みを見るばかりだったけれど、私の内臓はそれに反応してずくりと痛んだ。


161008
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斜掛