「にっかりの髪はさらさらで良いわねえ」
布団でおとなしく寝ている主が、側に座った僕にそっと手を伸ばした。僕が身を主の方へかがめると、彼女はするりと僕の髪を梳く。まだ幼いとも形容できる齢の主は、病のせいか、実際よりも厭に大人びていた。それは日々濃く重く、じわりと侵食しているように思える。
「青江って呼んでって言ってるじゃない」
僕がそう言うと、主は手を止めずに「あおえ」と発した。声音だけはいつまでも年相応に軽やかだった。
「今度は編み込みで出陣してね」
「お嬢がそう言うのなら」
やった、と小さく笑って僕の髪から頬に手をすべらせ、くい、と主の元へ近寄せた。なんと滑らかなその動き。近づいた主の顔をまっすぐに見れなくて、目を閉じる。つめたい唇だった。
「いってらっしゃい、あおえ」
僕が出ている間、君が逝かないと良いのだけれど。
back →
斜掛