久々知さん。頭脳明晰、眉目秀麗、言うことなしの美少女だ。どちらかといえば大人しいほうだけれど、その名前は広く知れていた。
入学式で答辞を読んだその澄んだ声は、校長らの長話のおかげで退屈な空気が流れていたその場を変えた。読み終わり礼をし、上げた顔の涼やかさに、幾人もが見とれただろう。彼女は、人間関係に疎い私でさえ知っている有名人だった。

そんな彼女とよく目が合うようになったのは、この春二年に上がり、久々知さんと同じクラスになってからだ。今まで何の接点もなく、自意識過剰なだけかもしれないと思ったりもしたけれど、そうではないように思えた。感じた視線を迎え撃つとその黒眼は決まって数秒、僅かに見ひらいて、そのあとゆるゆると伏せられるのだった。睫毛の影を肌に濃く映して。

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今日はようやく委員会決めがLHRで行われたけれど、完全に出遅れてしまった。ああ、図書委員入りたかったなあ…仲よさげな2人組が前で図書にしようと話していたので遠慮した所、どこもすぐ決まってしまった。やばい、今年何にも入れないかもしれない。クラスの係には入れるだろうけど、調査書には委員会で書かれた方が良い。ただでさえ勉強は不得手だ、こういうところはちゃんとしないと…どうしようと焦っていると、ふいに声が降ってきた。

「あ、名前まだ入ってないじゃん。選管足りてないから入ってよ」

友人の学級委員のお声で私はぎりぎり委員会に入れた。しかし選挙管理委員って仕事大変そうだな…相方の子に迷惑かけないようにしないといけない。誰だろう、そう思い黒板を見た私は、一瞬固まってしまった。

選挙管理…久々知 名字

久々知さんの席を振り向くと、案の定あの視線、大きな黒眼。いつもより長くぶつかった気がした。


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委員会の枠は無事埋まり、LHRの残り時間は自由になった。ちなみに、選管が久々知さんとペアになれるにもかかわらず空いていたのは、やはり仕事が多いからのようだ。
不安でしかない。足手まとい確実じゃないか。頑張らないと…

「あ、あの、名字さん!!」
「うわっ、はい!!」

突然呼ばれた自分の名前に反応すると、机の側に久々知さんが立っていた。

「あっ、ごめん驚かせちゃって…」
「ああ大丈夫、ちょっとぼーっとしてて…!」

なんてことだ、美少女に謝らせてしまった。こっちこそごめんと返すと、さらにあわててしまった。か、かわいい。いつも凛としている、そんな印象が強かったから新鮮だ。久々知さんが話しかけてくれるだなんて、と緊張したけれど、あたふたしている彼女を見ていると自然と笑みが漏れた。恥ずかしそうにうつむく久々知さん。

「あの、ね、わたしずっと名字さんと話したかったの」
「え」

よく目が合った、というのは自意識過剰では無かったようだ。

「…うれしい」

そう呟くと、久々知さんは元からぱっちりした目をさらに大きくして、「ほんとう?」と聞いてきた。

「うん。委員会、迷惑かけちゃうかもしれないけど、よろしくね!」
「よ、よろしく!」

机の上に投げ出していた私の右手を、両手で握られた。思ったより力がつよかった。痛いくらいに。
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