好きな人ができました。
 白く透き通る肌と輝く銀の髪、それとは対照的な黒々としたまるい瞳。
 12歳。

「犯罪だ……」

 文字通り頭を抱えてカウンターに座った。呑んで忘れたいとバーに来たはいいが、外でアルコールを摂取してぐでんぐでんの醜態を晒すのは避けたいと今更ながら思い、真っ先に運ばれた酒には手を付けず、ジュースなんぞ追加注文してごくごく喉を鳴らした。美味しいけど。判断を誤ったのはこの件が相当堪えているからだろうか。今の悩みをここにいる皆様に広くお伝えしたくはないので、酒は並々注がれたまま佇んでいる。
 ヒソカのことを散々ペドだバイだとけなしていたけれど、まさか自分がショタコンだとは知らなかった。思わなかった。だって今まで人並み程度の恋愛はしてきたんだ、数は少ないかもしれないけど健全な。陽の当たらない仕事をしていたって、普通の、当たり障りのない男性とこれまでどこにでもあるような平凡でありふれた、幸せな恋だった。
 それがここに来てなぜ。しかも問題なのは年齢だけではない。彼は友人の弟なのだ。……友人と言えるのだろうか、向こうは否定してきそうだ。ともかく知人の。知り合いの。弟。

「犯罪者だ……」
「今更?」

 隣にしれっと、気配を気取らせないまま座ってきた黒い長髪。露骨に反応はしないものの心臓はばくりと脈打った。普通に驚くわ。サラサラのキューティクルがいとうらめしきこいつの、その弟君が私の想い人である。能面野郎の白い肌が、彼を、キルアくんを思い出させる……泣きたい。泣きそう。

「いや次元の違う犯罪なんだよ…」

 なんでいるのかだとか、聞いても特に面白い言葉はかえってこないだろうから聞かないでおく。

「お前いつの間にそんな悪党になったの?」
「あくと……うん、まあそうだね……堅気じゃないから元からといえばそうなんだけど……」
「人殺しよりもさらに進化できるもんなんだね」
「…未来ある若者の芽を摘むのは殺しと同等かそれ以上だよ…」
「ああヒソカとか?」
「うん。うん…?」

 あとイルミくんもね。てか穢れなきキルアくんを歪ませたのはイルミくんなんだよね。事情はあれど。そこにまた私の手が加わったらって、もう、駄目でしょう。てかヒソカは普通に殺してるか。はあ私まじで…なんなん……。

「なに、ガキを凌辱でもした?」
「し、してない! そんな! 子供にそんなことする奴私がぶっ殺す!!」
「ヒソカはピンピンしてるけど」
「あれは無理」

 というかまあ、性的では(ギリギリ)ないので見逃…せはしないけど。変態だけど多少は筋の通った変態なのだ。それとバカ強いので私なんかじゃ無理に決まっている。

「じゃあなんなの」

 自分から話しかけてきたくせに面倒くさがるイルミくん。そういうところですよ、友達少ないの。人の事は言えないが。

「……なんでもないです……イルミくんと話してたらスケールの小さい話に思えてきた…」
「そう。それは良かったね」

 感謝しなよ。そう言って私が半端に口をつけていたジュースを飲み干した。つっこむのも面倒になったのでありがとうと返すと、彼は「相談料」と右手の平を開いてみせた。

「いや…いま手持ちそんなに無い……」
「冗談だよ。でもまあ、少しくらい奢ってよ」
「ボンボンが何を言う」
「やっと調子出て来たね」

 は? と伏せ気味だった顔を上げてイルミくんを見ると、店員に酒をいくつか注文していた。…それ私持ちじゃないよね?

「キルに会わせてからなんか生きが悪いよね」

 黒々とした、生気のない目をこちらに向けてイルミくんは言った。そんな鮮魚みたいな形容しなくても…てかイルミくんの目の方が死んだ魚じゃ…と思う余裕もなく、口にされたその名前にぎくりと体が強張る。目ざとくそれを察したイルミくんはこう畳み掛けた。

「キルに惚れでもした?」

 彼は冗談で言ったんだろうけど、私は再びぎしりと硬直してしまい、イルミくんはというとさっと黒いオーラを出して応戦した。いや戦いとかではない。

「は? …まさかキルをりょ」
「してない! してない!! 好きになっちゃっただけ!!」

 慌てて顔を上げ弁明するもイルミくんの殺気は変わらない。むしろ強まった気さえする。

「…ねえ名前、」
「ヒイ違うんです彼ととやかくなりたいとかそういう邪な想いはないです、ただ美しいものに惹かれただけというか! うわなんだこの台詞変態くさいな…じゃなくて! もう忘れます一生会いません彼の人生に関わりません!!」

 そうまくし立てると店の出口へと瞬時に駆けた。逃げ足だけは自信がある。今まで生きて来れたのはこれと、あと身体がいささか丈夫すぎるという点のおかげだ。それでも捕まるのは時間の問題だとは思うが、イルミくんは追ってこなかった。
 …お金を払ってこなかったのを思い出し腹の奥がすうと冷えた。後日会ったときが怖いなあと腹部をさするが、ありがたいことに彼との仕事は今の所ない。
 それに結論は出た。忘れること。最初に戻ってしまったけれど、イルミくんに生死の際に追い込まれて出した答えだ、きっと正解なのだろう。やっぱり感謝、しないといけないのかもしれない。次会った時、代金を何倍に膨れさせて請求してくるか想像がつかないが、まあとりあえず、お仕事頑張ろう。


続くかもしれない
back


斜掛