「ね〜ちゃんは女の人なのに化粧しないの?」
「えっ」
Ra*bitsのレッスン終わりに談笑していた中でそう光くんに言われた。後ろで友也くんが諌めるのが少し遠くに聞こえたくらいにはショックだった。慣れないプロデューサー業に日々忙殺されているから時間がなくて、というのが光くんの疑問に対する答えだが、そんな言い訳をしていいものなのか。化粧自体することにはするが、さして上手くもなく、かといって向上心がある訳でもなしに、とりあえずのものを施していた。今ではそれすら億劫になってしまったけれど。
「だめかな…だめだよね女子力の低下…」
「ん〜だめじゃないんだぜ! でもなんか変な感じがするんだぜ!」
「へ、へん」
変か〜そっか〜……。光くんの真っ直ぐな言葉は真っ直ぐ私の心を砕く。ブロークン。なかなかに痛いです。
「なるちゃん先輩がいっつもしてるから」
なるちゃん。嵐ちゃん。モデルだし、そりゃあ見られることへの意識は高いんだろうけど、それでも彼はいつも本当に綺麗にしていた。
「確かに嵐ちゃんはいつもバッチリ可愛いね」
「ね〜ちゃんもいつもかわいいぜ!」
「えっ!? ありがとう…」
ぴかぴかの笑顔で言われるとストレートに照れてしまう。ごにょごにょとお礼を言い終わるか終わらないかのうちに光くんは走り去っていった。ダッシュだね。
置いてけぼりになった私はふと嵐ちゃんの、きっちり造られたアイラインを思い出した。あの眼差し。女子顔負けの、でも女の子には無いあの光。
その後なんとなく、なんとなくだけど彼を避けていたように思う。クラスは違うし最近はKnightsのプロデュースも少ないしで元々会う機会は少なかったけれど、目を何となく合わせづらかった。人のことをよく見ている彼のことだ。察して向こうも距離を置くのではないか。そう思っていたのだけれど。
「アタシ、何かしたかしら」
放課後、校舎隅の廊下、衣装を仕上げてしまおうかと手芸部を覗きに行こうか足を踏み出したところだった。振り返った先のその顔は今日もきれいに整えられていた。声音のやわらかさ、切なげな眉とは対照的にその瞳だけは視線を落としつつも不敵な色を湛えていた。思わずそらしてしまいたくなる、でもそうはさせない引力がある紫色。
「ち、ちがうよ」
疑問符を浮かべる嵐ちゃん。それでも揺るぎない眼差しに混乱する。
「嵐ちゃんが綺麗すぎて…!」
嵐ちゃんがは? なんて言ったのは私が知っている中では初めてかもしれない。動揺。私も彼も。もちろん私のほうが程度は酷い。
「アラ、美しさってのは罪なものねェ」
すぐにウフフと普段の調子に戻り微笑む嵐ちゃん。それだけで私は真っ赤になってしまう。かわいい。きれい。目が、離せない。
そんな私を見て嵐ちゃんは完璧な笑みをわずかに崩す。拍子抜けしたような。少しだけ、戸惑っているような。でもそれはほんの一瞬で、すぐににっこりと笑む。
「そういう名前ちゃんも、綺麗だしかわいいわよォ」
「か、かわ…?! かわいくないよ!!」
「あらァ、そんな謙遜はいけないわよ。もっと自信を持たないと、せっかく女の子に生まれたんだもの」
「あ…」
「そうねェ、今は時間あるかしら」
「え、うん大丈夫だよ」
「アタシのお化粧のコツ、教えたげる。来て」
「えっ?!」
「魔法をかけてあげるわ」
そっと取られた右手が震えているのを嵐ちゃんは気づいているだろう。あつい。顔も体もなにもかも。優しく握られた手はすべらかだけれども、大きかった。男の人の手のひらだった。
180318
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斜掛