伊作を見つけたのは、大学生という肩書きにも慣れた頃だった。文系も理系もごちゃまぜのばかでかいキャンパスで、ごった返すお昼時ピークの学食で、水をひっくり返しついでに食べていたうどんもひっくり返し、最後には自分自身もひっくり返っていた。ざわざわと人の話し声がうるさい中で、わたしだけ一人、彼と一緒にいた前世の記憶の渦に、静かに飲まれていた。





「相変わらずだね、不運委員長」

 伊作が諸々を片付け、集まった注目が散らばったところで声をかけた。水をコップに注ぐ、心なしか少し猫背に、落ち込んだような肩に。
 長いまつげとすこしつった目はそのままに、髪の毛は当たり前だけど短く、流行に乗った色で、けれど猫っ毛はワックスにはいじられていなかった。きっと髪がやわらかすぎて遊べないのだろう。
 その顔は女子から多大な支持を得る部類なのだろうけど、驚いてこちらをみた表情はどうにも間抜けなものだった。

「名前……? どうして……」

 伊作はしばらく言葉をつげないでいた。当たり前だ。彼もきっと、美化されたもの、そうでないもの、いろいろな記憶が頭の中を駆け抜けているんだろう。
 コップをまた落とすんじゃないかと思ったが、期待したようなことは起こらなかった。

「伊作は医学部? 私文学部なんだけど」

 あんまり長いので私の方から沈黙をきった。

「え、ああうん…ていうかあっ、えっ、見てたのかい!?」
「まあね」
「君も相変わらずだね…」
「なんだと」

 ははは、と笑うその顔にデコピンでも食らわしてやろうかと思ったけれど、また水をこぼしてしまってはさすがにかわいそうなのでやめた。

「ていうか席、もう別の人が座ってるんじゃないの。荷物も置かないで」
「ああうん…いいや。もうお金ないし」
「素うどん買うことすら?」
「…ほんとよく見てるねえ」

 伊作は苦笑した。伊作がさっきだめにしたうどんは、具がなにも入っていなかった。

「伊作3限ある?」
「え、ないけど…」
「外行こう、奢る。私席が空くまで待てないわ、めちゃくちゃお腹すいた」

 伊作の返事を待たずに、学食の出口へ向かった。
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斜掛