ぶつ切りです
また、引っ越すことになった。
輝気はようやくひと段落した新居の片付けに、ふうとひと息つく。ここには昼前に到着したが今はもう夕方で、日はほとんど落ちかけていた。このご時世、マンションでも一軒家でもなしにご近所付き合いをとるというのも少ない話だが、隣人には一応挨拶をしておいた方がいいだろうか。中学生で一人暮らしをするというのはかなり稀なことであるから、会ったら色々な憶測や上面だけの心配などをよこされるだろう。それを初対面でされるのは経験上、決して気分がいいものではなかった。しかしそれも仕方のない話だ。ひとつ溜息をついて、外へ出るため玄関へと向かった。
右隣の住人は三十代程度の年齢に見える男で、わざわざ挨拶に来た、自分よりもずっと歳下の輝気をもの珍しそうに見た。この時間に部屋に、部屋着に寝癖、無精ひげでいるとは…と輝気はこの男を軽く見下した。酒臭い息が鼻につく。予想通り聞かれた「どうして一人暮らしをするのか」という質問に適当な、しかし疑問を持たせない理由を付けて話す。男は納得したようだった。軽く会話をして男の部屋の前を後にする。まあこの人とは、そんなに顔を合わすこともないだろうな。
左隣は留守だった。平日の昼間、普通はそうだろう。男と話して既に疲労感を覚えてしまっていたので、丁度よかったと輝気は思った。まだ片付けは残っている。それらに再び取り組むためにおとなしく自宅にもどった。
今日もいない。翌日の夜、帰宅しているであろう時間を見計らって、輝気は左隣の住人の家の前に立ち、錆びれたインターホンを鳴らした。しかしそれもむなしく、返事は返ってこなかった。よほど忙しくしているのだろうか、はたまた時間が合わないだけか。考えをめぐらせているうちにその声はすっと耳に入った。
「何かご用ですか」
背後から投げられた声。振り向くと部屋の主であろう女性が立っていた。ヒールでもなしに輝気よりもいくらか背は高く、その顔を見上げるかたちになった。
「あ、あの隣に越してきた花沢です。ご挨拶に伺おうと…」
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斜掛