図書室でありえない量のレポートを前に死にかけている所だった。こんなんじゃすぐそこに迫ったクリスマス休暇の宿題は大変なことになってしまう。絶対こんなに書く事無いでしょう、ゴブリンの生態とか。うわっ挿絵気持ち悪……。ますます気分が下がり溜息をつきそうになったところ、それよりも早く左隣からはあ、と息が零れた。
図書室はこんなにも広く席はまだまだ余っているし、その上ここはその隅の隅の一角なのに、彼はわざわざわたしの横に掛けてくる。ごめん後輩、わたし今人とおしゃべりしてる余裕ないんだけど……。
だがそんなわたしの様子を特に気にもせず、彼は話しかけてきた。
「先輩は、僕と兄どちらが好きですか」
突然の質問。いつもの涼しい顔はどこへやら、眉間に皺をよせ、机に視線を落としながら彼は聞いてきた。
「レギュラス」
間を空けずそう答える。てかわたし君の兄の事全然知らないんだけど……恥ずかしながら……。彼の兄シリウス・ブラックとは同学年だけれど、控えめに言っても友達居ないわたしのコミュニティはとても狭く、その人の事もよく知らない。だったら同寮の後輩で、割とよく話をする彼の方が好きだ、と思う。
「…そうですか」
そう言って彼は口をつぐんだ。いつもより大人しいレギュラスを不思議に思い横顔を見やると、憂いを帯びた横顔に伏せられた睫毛はまあ美しくてイケメンは得だなあ滅びろわたしの顔なんか徹夜だからもう絶対やばい……そうじゃなくて。
普段なら「酷い顔ですね、マンドレイクみたいだ」とかなんとか絶対言ってくるのに、今日は黙って座っている。教科書も本も開かず。
「美形おぼっちゃまは大変だねえ」
「…………」
わたしの先制攻撃に対し無言でこちらを睨んできた。案外的を得た嫌味だったらしい。彼の視線を受け流しつつ羽根ペンは滑らせていく。
「先輩には分かりませんよ」
「えええ……分かるわけないでしょう……」
わたし名家でもない一般庶民だし、人それぞれ違う事情が色々とあるんだから。
そう言うと彼は視線を落とした。
「でも何故だか、先輩には分かっていて欲しいと思うんです」
矛盾しているんですけれどね。彼の膝の上できゅっと握られた手は白く薄くきっと冷たい。
「どうしてなんでしょう」
「レギュラスに分からないことが私に分かる訳ないよ」
「まあそれもそうなんですが」
否定しろよ。私がじとりと睨んでも彼はまだ手元を見ている。
「でもたまに、先輩には全て見透かされている気がするんです。腹立たしい気もするんですが不思議と嫌じゃなくて、心地良くて」
そうだね、知ってるよ。貴方の未来、貴方の最後。でもここにいるレギュラスはわたしの知らない、まだほんの少年で、触れる距離にちゃんと存在している。
白い手は案の定冷え切っていた。重ねたわたしの右手にはた、と温かい雫が落ちる。わたしのものではない体温。
左手でまだ頼りない背中を撫でる。彼の喉からこらえきれない嗚咽が小さくもれだした。
知っている。貴方が辛い道を歩んでいくことを。わたしなんかにはどうしようもない結末。けれど今、貴方の心が休まるなら、わたしは。
171021
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斜掛