innamorato
顔の下半分をマフラーに埋め、ブーツの踵を鳴らしながら歩を進める。
白く染まる風景の中靡く貰い物のそれは。色のせいか、ひどく温かいような気がした。
「ぐぇっ!ギアッチョ!たんまたんま!」
「ア"ァ?」
耳元で喚くメローネは後ろ向きでなんとかバランスをとり歩いていた。
傍らの松葉杖が石畳に擦れ、段差で跳ねてあちこちにその先を向けている。
俺の足にもまとわりつきそうなそれを持ってやると、途端に辺りは静かになった。
「危うく転ぶとこだったぜ」
「ケッ、テメェがどんくさいだけだろ」
「ギアッチョ」
「なんだ」
「合図くらいしてくれよな」
「そんなモン、言わなくても分かるだろうが」
「…そうだな」
尾行してきていた奴等は、尋問後物言わぬ骸にした。
ボスが新たになったパッショーネと敵対する組織の使いっぱしり達は、メローネに絡んできた奴等の更に下の者だった。
「あんなことのために報復とか無駄なことするなぁ。あ、飯どうする?」
「めんどくせぇからデリバリーでいいだろ。ピザかチキンの気分だな。お前は?」
「パスタ食いたいな」
「おし。好きなもん頼め」
「マジで?いよっ!太っ腹!」
「誰がデブだゴラァ!」
「あはは!違ぇーっ!」
俺等より先に尾行に気づいたミツヤは何者か。
くだらないいつもの会話をしながら、それが頭から離れない。
本当にただのボディーガード"もどき"なのだろうか。
資格なんぞ持ってなさそうな女が、背後の、殺気も出していない相手を敵と判断した基準はなんだ。
スタンドを使い俺達と話すことに迷いはなかったのは何故か。
友人をホテルまで無事に送ったおかげか。疑問は尽きない。
(だが…)
別れ際。緊張の中彼女が見せたあの飾らない表情は、俺だけが引き出せたものだった。
思い返すと、今日は柄にもないことばかりしていた気がする。
(アイツの手、柔らかかったな)
無性に恥ずかしくなって相槌が遅れたせいで、横でメローネがうるせえ。
「ギアッチョ?もしもーし?先程まで決め顔していたギアッチョさーん?」
「悪りぃかよ」
「………やっぱ、本当に惚れたみたいだな」
殴る手が止まる。止まってしまった。
「ふぅーん」
「グッ…その顔やめろや!」
「え〜?」
おちょくる同僚に拳を叩き込もうか悩んでいると。
「結婚式には呼んでくれよな!俺が二人の恋のキューピッドですって手紙読んでやるからさっ!」
「頭沸いてんのか」
俺達のようなギャングが、所謂普通の幸せとは無縁なことをよく知っているくせに。
まるでそうなると決まってるように言いやがる。
「……ちゃんとした格好してんなら式場に入れてやるよ」
「リアルなボディペイントは?」
「アウトだ。ボケが」
だが、メローネが。あの一週間を生き残ったメンバーが。
自分のことのように嬉しそうに笑うから、怒気が萎んでいっちまう。
「──あ。でも彼女、プロシュート見たらそっちいっちまうかも」
「よし、殴る」
「アベシッ!もう殴ってんじゃん!」
「次は左だ。ほら差し出せ」
「ハンムラビ法典?!」
(余計なこと言いやがって…)
腕の中にいた彼女を思い出すと感じた甘い心音は、殴っている間に違うものに変わってしまった。
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